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高校三年生・仮名:Sさん
ずっと“仮の自分”で生きている感じがあります。
学校でも、友達の前でも、
その場に合う自分を出しているだけで、
本当の自分がどこにいるのか
分からなくなってきました。
明るくしてる時もあるし、
静かにしてる時もあります。
でもどっちも
“作ってる感じ”がします。
誰にも嘘をついてるわけじゃないのに、
全部が演技みたいで、
ふとした時に
「自分って誰なんだろう」って思います。
遥
「仮の自分っていうけどさ、
人ってだいたい場所ごとに顔変えてるぞ」
蓮司
「学校の自分、家の自分、友達の前の自分。全部違う」
日下部
「それ自体は特別なことじゃない」
Sさん
「でも、どれも本物じゃない感じなんです」
遥
「“これが本物”って感覚がない?」
Sさん
「はい」
蓮司
「逆に聞くけどさ。
“本物の自分”ってどんなの?」
Sさん
「……分からないです」
日下部
「分からないのに、それが無いと感じている」
Sさん
「はい」
遥
「それな、“本物は一つ”って思ってるからかも」
Sさん
「違うんですか」
蓮司
「むしろ、一個しかない人の方が少ない」
遥
「人ってさ、場面ごとに作ってる部分も普通にある」
日下部
「社会で生きる以上、
ある程度の“役割”は必要になる」
Sさん
「でも……全部役みたいなんです」
沈黙。
遥が少しだけ声を落とす。
「疲れてる?」
Sさんは少し考えて、頷いた。
「たぶん」
蓮司
「仮の自分って感じる時ってさ、
“演じすぎてる”時なんだよな」
Sさん
「演じすぎ」
日下部
「嫌われないように、
空気を壊さないように、
ずっと調整していると
自分の輪郭が薄くなる」
遥
「自分の気持ちより
周りの温度に合わせてる状態」
Sさん
「……それかもしれません」
蓮司
「でもな」
少し笑う。
「仮の自分って、完全な嘘ではない」
Sさん
「え」
日下部
「選んで出している一部分だ」
遥
「全部じゃないだけ」
蓮司
「人って“編集された自分”で社会に出てる」
Sさんは少し黙る。
「じゃあ、本当の自分ってどこにあるんですか」
遥は少し考えた。
「たぶん」
Sさんを見る。
「仮をやめた瞬間」
Sさん
「やめた瞬間?」
日下部
「疲れた時、一人でいる時、
何も考えずに笑った時」
蓮司
「あと、誰かといて
“気を使ってない瞬間”」
遥
「その時の自分が一番近いかもな」
Sさんは静かに言った。
「……そんな瞬間、ほとんどないです」
少し間。
遥が言う。
「じゃあ
これから作ればいい」
Sさん
「作る?」
蓮司
「仮じゃない時間」
日下部
「短くてもいい」
遥
「一日五分でも
演じてない時間があれば
それは仮じゃない」
Sさんは少し考える。
それから、少しだけ笑った。
「五分なら
できるかもしれません」
遥
「それで十分」
蓮司
「仮の自分が悪いわけじゃない」
日下部
「ただ、休憩がないと人は自分を見失う」
Sさんは立ち上がった。
ドアの前で振り返る。
「仮の自分って」
三人を見る。
「みんなあるんですね」
蓮司が笑う。
「むしろそれで社会回ってる」
遥
「ただ」
少しだけ肩をすくめる。
「ずっとそれだとしんどいだけ」
日下部
「だから、本物の時間も少しだけ残しておく」
Sさんは小さく頷いた。
ドアが閉まる。
静かな部屋に戻る。
蓮司がぽつりと言う。
「“自分って誰だろう”って考えるやつ、増えてるな」
遥
「考える余裕がある証拠だよ」
日下部はメモ帳を閉じた。
「悪いことではない」
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