テラーノベル
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昼休み明け。
教室。
空気が少し浮いている。
いつも通りじゃない。
理由は一つ。
「なあ」
後ろから声。
わざと全員に聞こえるくらい。
「昨日さ」
間を作る。
「女子トイレにいたよな」
一気に、視線が集まる。
避ける暇もない。
「は?」
前の席のやつが振り返る。
「マジ?」
「見た見た」
すぐに乗る。
「普通にやばくね?」
「何してんの?」
笑いが混じる。
でも、温度は低い。
「違う」
出る。
早く。
「何が?」
即座に被せられる。
「入れられて」
言う。
一瞬、静かになる。
そのあと、笑い。
「またそれ?」
「都合よすぎ」
「誰に?」
詰まる。
「言えない時点で嘘じゃん」
「てかさ」
別のやつが口を挟む。
「こいつ前から変じゃね?」
「それな」
「ずっと浮いてるし」
「空気読めないし」
「何考えてんのか分かんないし」
一つ一つが、積み重なる。
元からあった評価が、全部出てくる。
「だからああいうことするんだろ」
「普通じゃないもんな」
遥を見る目が揃う。
“そういうやつ”として。
「なあ」
前の席のやつ。
「お前さ、なんで女子トイレ入ったの?」
「……だから」
言いかける。
「いや、ちゃんと説明しろよ」
強く遮られる。
「入れられたとかじゃなくてさ」
「“自分でどうして入ったか”」
逃げ道が潰される。
「……入ってない」
やっと出す。
「は?」
「じゃあどこにいたの?」
詰まる。
言葉が繋がらない。
「ほら」
誰かが笑う。
「答えられねえじゃん」
「自分でも分かってないんだろ」
「てかさ」
別のやつ。
「そもそも男なの?」
一瞬で空気が変わる。
ざわっと広がる。
「それ思った」
「なんか違うんだよな」
「声もキモいし」
「動きも変だし」
笑い。
でも、ただの冗談じゃない。
「じゃあさ」
「はっきりさせればよくね?」
止める声は出ない。
誰も。
「どうやって?」
聞くやつ。
でも、顔は笑ってる。
「いや普通に」
肩をすくめる。
「証明すればいいじゃん」
言葉が落ちる。
教室の真ん中に。
逃げ場がなくなる。
「ほら」
誰かが立ち上がる。
「前出ろよ」
腕を掴まれる。
引かれる。
「やめて」
出る。
反射で。
「何が?」
すぐ返る。
「嫌なら違うって証明しろよ」
矛盾を押し付けられる。
「男なんだろ?」
「じゃあなんで逃げんの?」
周りが囲む。
完全に。
「ほら」
「言ってみろよ」
「自分が何か」
喉が詰まる。
「……男」
出る。
小さく。
「聞こえねえ」
「もっとちゃんと」
「……男」
少しだけ強く。
「それだけ?」
「証明になってなくね?」
笑いが広がる。
「言うだけなら誰でもできるし」
「なあ」
誰かが一歩近づく。
「ちゃんと“分かる形”でやれよ」
一気に距離が詰まる。
腕を掴まれる。
服に手がかかる。
「やめろ」
声が出る。
強く。
一瞬、間。
そのあと、空気が変わる。
「は?」
「今の何?」
「急にでかい声出すじゃん」
笑い。
でも、さっきより冷たい。
手は離れない。
「そういうとこなんだよ」
誰かが言う。
「普通にしてりゃいいのに」
「無駄に目立つからこうなるんだろ」
責任がすり替わる。
「なあ」
「やるなら最後までやれよ」
圧がかかる。
周りから。
でも、その瞬間。
「おい」
低い声。
入口の方。
教師が立っている。
一気に手が離れる。
距離が空く。
「何やってる」
誰も答えない。
「別に」
誰かが言う。
「話してただけです」
空気が一瞬で切り替わる。
教師の視線が、遥に向く。
「お前、何だその顔」
言葉が出ない。
「何かあったのか」
答えられない。
後ろ。
視線。
「……別に」
出る。
「そうか」
教師はそれ以上聞かない。
「なら席戻れ」
それで終わる。
でも、終わってない。
席に戻る。
視線が残る。
誰ももう触れない。
今は。
でも、さっきの途中で止まったことだけが残る。
“証明できなかったやつ”として。
ここでは、やられたことじゃなくて、「やろうとされた事実」と「途中で止まった不完全さ」だけが、次に繋がる。
月城星姫
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コメント
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読了…第1話、重かったです。 遥くんが一言も言い返せずに、周りに積み上げられていく感じ、すごく胸が痛かった。全員が“普通じゃない”レッテルを貼って、一人で囲まれてるあの空気、想像しただけで息苦しくなった。 「“証明できなかったやつ”として残る」っていう締め方、すごく好き。終わってない感が生々しくて、続きが気になる…次も読みます🌙