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夜もすがら 契りしことを 忘れずは 恋ひむ 涙の色ぞゆかしき
藤原定子
彼はこの詩に深く反論した。
人は死んだら意味なんてないのだ。
死んで覚えられても生き返りも天国へ行けもしない。
恋愛において最終的には子孫を産む。
その後に意味なんてない。
またして恋も愛も子孫繁栄のための仕組みだ。
彼は許嫁とその後もちょくちょく会っていた。
が、一度も心は開かなかった。
彼女はあまりに感情的に物事を考えるので合わないのだ。
でも彼はあまり気にしなかった。
子孫を産んだらすぐに離婚をする予定だったためだ。
彼はとにかく勉学のために生きる。
それが彼の生き様となるのだ。
勉学に励み、人のために生きるのだ。
栄光を掴み取るのだ。
これは一概に悪いとは言えない。
現に仕事だけに精を入れているものもいる。
そうした生き方もその人の執念ならば問題はない。
それが当人の幸せであるなら問題はない。
ある日、彼に一本の電話が入った。
彼の父が死んだのだ。
今の国の経済について抗議デモが発生し、
彼の父は暗殺されたのだ。
彼はこの時父は今無意味になったなど思わなかった。
その時彼は自分の考えが間違っていたと深く思った。
後日、父の葬儀に参列し、父の屍と対面する。
父はもうこの世にはいないのだ。
彼に涙はなかった。
感情を彼は持たぬのだ。
彼は倫理的に生きるのだ。
それは決して必ずしもいいことではなかった。
だが彼にそんなことは気づかない。
だってここにいる人は皆泣いていないのだから。
父の死から一ヶ月。
母は父の無念を晴らすべく、議員への出馬をした。
彼は相変わらず勉学をする。
だが今日はまた許嫁と会う日だ。
彼は彼女と出会う時、
あまり話さなかった。
彼は最低限のことしか家庭ではしない。
そう彼女に示したかったのだ。
だが彼女はそんな彼を可哀想な人として同情した。
それが彼には迷惑になるとも知らずに。
「お父上様のことは残念でしたね。」
彼女は彼を見なかった。
「うん。お国のために一生懸命働いたのに。」
彼のその言葉に、家族としての悲しみはなかった。
「普段、お父上様とはどう過ごしていたの?」
彼女は地雷を踏んだ。
それは最も大きかった。
「……過ごしてない。」
彼は一層目に色をなくした。
それは死んだ父のような目であった。
彼女は黙った。
「人間に必要なことはなんでしょうか。」
初めて彼は彼女へ質問を投げかけた。
彼は父がいないこの先、どのようにして生きれば良いのか。
「調和」
彼女は全てを察したように答える。
彼は今自分に調和はできているのか。
考える考える考える考える考える考える。
後日。
彼は家出をした。
それは彼に初めての親への反抗であった。
何故彼がこんなことをしたのか。
次の章で知る。