テラーノベル
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奈緒の里帰り二日目は、親子でドライブに出かけた。
娘の帰省に合わせ、聡美も三日間休日をもらっていたので、明日までは母娘で楽しむ予定だ。
この日は少し足を延ばして、新鮮な魚介類が手に入る市場や採れたての野菜が買える道の駅まで行ってみる。
今夜は聡美が、久しぶりに帰省した娘に手料理をふるまってくれるようだ。
昼食は道の駅にある食堂で食べ、食後にはソフトクリームも食べる。
ドライブの帰りには海へ寄り、二人で浜辺を散策する。
そして夕方、二人は家に戻った。
一休みした後、母娘で夕食の支度を始める。二人でキッチンに並んでいると、奈緒の携帯が鳴った。
(誰からだろう?)
気になった奈緒は携帯を見る。
すると省吾からメッセージが届いていた。
【今そっちに向かってる! 急で悪いけど、今日お母様へご挨拶に伺ってもいいかな?】
「えっ?」
奈緒が大きな声を出しので、聡美が奈緒に聞いた。
「どうしたの?」
「う、うん……彼がね、今から行ってもいいかって。お母さんに挨拶したいからって。どうする? 駄目なら断るか……」
奈緒の言葉を遮るように聡美が言った。
「まぁ! どうしましょう!」
「お母さん、駄目なら断るから」
「断らなくていいわよ。こんな所までわざわざ来てくれるんでしょう? 嬉しいじゃない! あ、じゃあお料理追加しなくちゃね。あ、それと魚好さんでお刺身注文しようっと! あとは……そうそうトイレ掃除トイレ掃除……」
母の聡美は急にバタバタと動き出した。
しかし慌て過ぎて電話の受話器を手にしたままトイレへ行こうとしたので、奈緒は笑いながら引き止める。
「お母さん、トイレ掃除は私がやるから」
「そう? じゃあお願い。あー久しぶりのお客様でなんだか慌てちゃうわ~~~」
聡美はそう言いつつ嬉しそうだ。
母親のあんな楽しそうな顔を見たのは久しぶりの事なので、奈緒も嬉しくなる。
麻生家には、久しぶりに母娘の賑やかな声が響いていた。
一方、奈緒が家に戻った後、省吾は一人会社に向かった。
奈緒がいない会社はなんだか味気ない。
奈緒の休日はまだ始まったばかりだというのに、省吾は奈緒が傍にいないのでやる気が出なかった。
あと二日、いや、土日を含めるとあと四日も奈緒に会えないのだ。そう思うとなんともやるせない気持ちになり思わずため息が漏れる。
こんな時こそ仕事に集中すればいいのだが、こんな時に限って出張も会食もなくやけに暇だ。
今抱えている案件もかなり先まで終わらせているので、時間だけはいっぱいあった。
省吾はこの日しょんぼりとした気分で定時に仕事を終えた。
本当なら、このまま奈緒を追いかけて千葉まで行きたかったが、明日は朝イチで重要な会議があるので諦めるしかない。
家に帰る途中、省吾は行きつけの店で弁当を買うと、そのままマンションに戻った。
テレビを見ながら弁当を食べていると、頭の中には奈緒の事ばかりが浮かんでくる。
(今頃、富津で美味い魚でも食ってるのかなぁ)
(お母さんと積もる話で盛り上がってるんだろうなぁ)
食事を終えて手持無沙汰になった省吾はパソコンの電源を入れ、
【富津市】
の地図を出す。今奈緒がいる場所だ。
そして、以前奈緒との会話に出てきた『マザー牧場』や『富津岬』を検索してみる。
その時省吾は奈緒が言っていた言葉を思い出した。
『富津岬はいいですよー、展望台があるし満天の星空が観えるし。前にかなりヒットした『恋愛小説家の恋』っていう映画をご存知ですか?』
『実はその映画に富津岬が出て来るんです。私、あのシーンが大好きで何度も観ちゃうんです……』
省吾はすぐに映画が観られるサイトを開いた。
そして奈緒がお気に入りだという映画を探す。
『恋愛小説家の恋』
その映画はすぐに見つかった。
(奈緒が何度も観るくらい好きな映画だ、俺も観てみるか)
そこから省吾は映画に集中した。
そして二時間後、映画を観終わった省吾は何かを決意したような顏をしていた。
省吾は携帯を手に取ると電話をかけ始める。
電話に出たのは公平だった。
「省吾? どうした? こんな時間に」
「夜に悪い。一つ頼みがあるんだけど、明日の朝の会議が終わったら早退させてもらってもいいか?」
「え? どうしたんだよ急に」
「どうしても行きたい所があってさ」
省吾の突然の申し出に公平は驚いていた。今までこんな事は一度もなかったからだ。
「随分急だなぁ。ちょっと待てよ、今手帳を見るから……おっ? 明日の午後は日村ネットワークスとの打ち合わせがあるけど、お前は行かなくていいのか?」
「それは俺がいなくても大丈夫だろう? 公平頼むよ」
あまりにも必死な省吾の様子に、公平はピンときた。
「ハハァ、そういう事か~。麻生さんだろう? たしか麻生さんは今休暇中だもんなー」
「バレたか。まあそういう事だ」
「そういう事ならしょうがないな。それにお前が自分から時間をくれなんて言ったのは初めてだもんなぁ。いいよ、日村さんの所には誰か手の空いている奴を連れて行くから」
「悪いな、助かるよ」
「その代わり、週明けにはちゃんと報告しろよ」
「わかったよ」
そこで二人は電話を終えた。
コメント
20件
省吾さん奈緒さんの事忘れられなくて会いたくなったのね(^-^)
麻生家の慌てようが目に見える様ですね 大切なお客様を迎えようと焦るお母さんの気持ちすごくわくわかります それに奈緒ちゃんが居ないと何もやる気の出ない省吾さんも可愛らしい‼️ 早く富津へ奈緒ちゃんを貰いに行って下さいね
決めたら即行動の省吾さん🩷かっこええわぁ🫶🩷 「恋愛小説家の恋」の文字を見たら、私は、健吾に会いたくなる😆🫶🩷🩷🩷