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翌日の放課後、シェルターへ飛び込んできたトゥランは、いつも以上に息が上がっていた。
「やります」
開口一番、それだけ言う。
ホレが持っていた連絡ノートを落としかけ、ヌバーは肉まんを口に入れたまま止まった。
「何をだ」
ミゲロが木槌を置くと、トゥランは机の上へ大きな紙を広げた。橋の上の見取り図と、時間割と、ざっくりした役割分担が書いてある。
題名の欄には、太い字でこうあった。
未成年の主張。
モルリが吹き出す。
「そのまんまじゃん」
「分かりやすさ優先です」
トゥランは真顔で言い返した。
学校の放送部、合唱部、生徒会で声をかけられる。橋の上なら人が止まる。上演の前に、町の若い連中が本音を言う場があれば、シェルター組の芝居へつながる空気も作れる。進路でも恋でも家のことでもいい、とにかく本気の声を橋の上へ置く。
説明は荒い。けれど熱は本物だった。
ハルティナが横から勢いよく頷く。
「私、椅子運ぶ。あと受付もやる」
ヌバーが紙をのぞき込む。
「どうして急にそんなやる気」
トゥランは一瞬だけ黙った。だが、誤魔化さなかった。
「返したい借りができたからです」
その言葉に、デシアは小さく目を伏せる。サベリオは入口近くで立ったまま、何も言わない。
まだ真相は全員へは共有されていない。それでもトゥランの顔を見れば、ただの思いつきではないことくらい分かった。
グルナラが現実的な声を出す。
「人を集めるなら許可がいる。警備も。苦情窓口も」
「だから申請出します」
トゥランはそう言って、すでに記入途中の書類まで出した。
ホレが驚く。
「早っ」
「昨夜のうちに書きました」
「寝てないの?」
「少しだけ」
ハルティナが目を細める。
サベリオはそのやり取りを聞きながら、初めて少しだけ口元を動かした。
完全な笑顔ではない。けれど、頑なだった顔つきがひとつ緩む。
そこへ、タイミング悪くニカットが姿を見せた。
書類の件で来たらしい彼は、机の上の企画書を見て、すぐ眉間へ皺を寄せる。
「橋の上で集会をやるつもりですか」
「集会じゃなくて発表です」
トゥランが即座に返す。
「どちらにしても、通行の妨げ、転落防止、騒音の問題があります」
「じゃあ対策考えます」
「考える前に申請は通せません」
言葉が硬い。だが前ほど冷たくはなかった。
ハルティナが一歩前へ出る。
「止めるなら、ちゃんと見てから止めてください」
ニカットは彼女を見る。昨日の言葉が、また同じ顔から飛んできた。
トゥランも負けずに続ける。
「逃げるために叫ぶんじゃないです。逃げないために言うんです」
シェルターが静まり返る。
その中心で、ニカットの視線だけが揺れた。
規則を並べれば終わる。けれど、それを並べるだけで済ませていい空気ではなかった。
彼は企画書を受け取り、無言で目を通す。細かい字で書かれた対策欄はまだ半分空白だが、余白の多さ以上に本気が見えた。
「……検討します」
それだけ言って、踵を返す。
通ったとは言っていない。だが、完全には閉めなかった。
トゥランはその背中を見送り、ぎゅっと拳を握った。
橋の上で叫ぶ夜は、まだ始まってもいないのに、もう少しだけ近づいていた。