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理紗子と手を繋いだ健吾はビルを出ると裏通りへ向かった。落ち合う予定だったカフェに向かうようだ。


「食事に行く前にちょっと一休みしよう」


カフェに入ると二人は注文カウンターへ並ぶ。

初めて入るカフェに二人共興味津々だ。そしてとりあえず『本日のコーヒー』を頼んでみる。

健吾曰く初めて訪れる店で飲むコーヒーはその店のお薦めを飲むのが基本らしい。


健吾が会計をしている間理紗子は店内のインテリアを見回す。アンティーク調の椅子やテーブルが並ぶ店内の照明は少し落とし気味で薄暗かった。

その薄暗さは理紗子のようにパソコンを持ち込んで仕事をする人間にとって居心地が悪そうだ。

しかしゆったりと寛ぎたい客にとっては居心地がいいだろう。この店はそういった客をターゲットにしているのだろうか?

ついでに理紗子はショーケースに並ぶスイーツやサンドイッチ類もチェックする。食べ物に関しては俄然健吾の店の物の方が美味しそうだし見た目のセンスもある。この店のスイーツはやたらと飾り付けがしてあってただ甘そうなだけのイメージしかない。


会計を済ませた健吾はコーヒーを受け取ると窓際の席へ向かった。

二人が向かい合って腰を下ろすと健吾が理紗子に聞く。


「スイーツは食べなくて良かったのか?」

「だってすぐに夕食でしょう?」

「だな」


そこで健吾が理紗子に聞いた。


「さっきの坂本っていう人は知り合い?」

「____元カレなの」


健吾は思わずコーヒーを吹きそうになる。


「マジか? あいつが2年前の二股男?」

「そう。付き合っていた頃から投資はやっていたけれどまさかあそこにいるなんて…びっくりよ」

「そりゃ凄い偶然だな。しかしあいつの最後の質問には参ったよ。あれは絶対俺に絡むのが目的だろう?」

「うん、あれは酷いと思った。ケンちゃんに恥をかかせようとしている感じだったよね」

「うん。なんか俺に恨みでもあるのか?」

「あの人の当時の口癖は『投資で儲けて会社なんて辞めてやる』だったのよ。だから成功しているケンちゃんの事が羨ましいんだと思うわ」

「だからって人に絡む事はないだろう? あいつは一体いくつなんだ?」

「今は34よ。ケンちゃんよりも4つ下かな」

「若いな。俺と同年代かと思ったよ」


健吾はそう言ってからまた一口コーヒーを飲んだ。


「まあまあ美味いぞこのコーヒー。なんか味に華やかさがあるなぁ。どこの豆だろう?」

「本日のコーヒーは『東アフリカ産とラテンアメリカ産の豆をブレンド』って書いてあったよ」

「そうか、この華やかさはラテンアメリカ系なんだな。なかなか個性的でいいね」


健吾は微笑みながらもう一口飲んだ。


健吾が幸せそうにコーヒーを飲んでいる姿を見て思わず理紗子は微笑む。健吾を見ていたら先ほどの弘人の事等あっとい間に忘れてしまうから不思議だ。


「なんかケンちゃんっていいね。いっつも前向きだし一緒にいると嫌な事も忘れちゃうね」

「ん? 忘れたい事があるならいつでも言え。俺が一晩中相手をしてやる」


健吾はニヤッと笑って言ったので理紗子の頬が赤く染まる。

朝健吾が理紗子へ向けていたハートマークの瞳は今もまだ健在だ。今の健吾は理紗子が何を言っても何をしても怒らずにずっとハートマークのまま理紗子を見つめていそうだ。

そう思うと理紗子は何とも言えない幸福感に包まれる。こんな安心感は弘人と付き合っていた頃には経験した事がない。


弘人は一緒にいても気に入らない事があれば常に文句を言うし時には理紗子に嫌味を言ったり当たる事もあった。

そんな時理紗子は、弘人の事を恋人というよりも手のかかる息子のように感じていた。だから付き合ってる時には時々うんざりする事もあった。



しかし健吾は決して愚痴や嫌味は言わない。口を開いて話す事と言えば前向きで建設的な話ばかりだ。

時理紗子は『言葉』が人に与える影響は大きいのだなと実感する。


(もしかしたら私の小説も同じかも)


自分の小説の一文が読者に元気や勇気を与えられたら……そう願わずにはいられなかった。

その時ふいに健吾が理沙子の首元に手を伸ばした。そしてシャツの襟元で光る黒蝶真珠にそっと触れる。


「今日も着けてくれたんだね」

「うん、すっかりお気に入り」

「よく似合ってる」


健吾しばらくその真珠に触れた後今度は指でスーッと理紗子の首筋を撫でる。その瞬間理紗子の身体がゾクッとした。

そして健吾はその指を理紗子の耳へ移動させると耳たぶで揺れるピアスにそっと触れた。ピアスに触れながら耳たぶを優しく愛撫する。

理紗子はうっとりした表情で健吾を見つめたまま小さな吐息を漏らした。


ここがもし家だったら健吾は理紗子をそのままベッドへ連れて行っただろう。しかし残念ながらここはカフェだ。

健吾が残念そうに指を離すと理紗子も少し淋しそうに小さなため息をついた。


そして理紗子は話題を変えようとあえて明るく言った。


「石垣島に行っていたのがなんだか随分昔の事みたい」

「そうだな、楽しかったよなー。また一緒に行こう」

「うん」


理紗子は健吾からのさりげない未来の約束に感動していた。私達には未来がある。そう思うと心の中が何かあたたかいもので満たされるような気がした。


コーヒーを飲み終えた二人はカフェを出た。

そして手を繋いで健吾の車があるコインパーキングへ向かった。


そんな仲睦まじい二人の様子をビルの陰からじっと睨んでいる男がいた。

その男は理紗子の元彼の弘人だった。

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