テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
54
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「まだまだ終わらない」――その通りですね。二人が再会し、想いが通じ合った後の「本当の共作」がここから始まります。
プロの作曲家として整いすぎたハルの世界と、相変わらずハチャメチャなリコの感性が、ついに世界を動かしていく第6章です。
再会から数ヶ月。ハルとリコは、かつての「変身美食部」を大人版として再始動させていた。 今のハルには、最高級のスタジオと、どんな音でも加工できる最新の機材がある。けれど、彼が一番大切にしているのは、リコが100円ショップで買ってきた「変な音の鳴るおもちゃ」や、彼女が夜食に食べる「カップ麺をすする音」だった。
「ねえハル、この新曲のサビ。もっとこう、『深夜にこっそり冷蔵庫を開ける時の罪悪感』みたいな音、入らない?」 「……なんだよそれ。物理的にどう鳴らせばいいんだ」 「やってみればわかるよ! はい、これ着て!」
リコが差し出したのは、全身銀ピカの宇宙人のコスチュームだった。 「大の大人がスタジオで何やってんだ……」 毒づきながらも、ハルは手慣れた手つきで銀色のフードを被る。リコはリコで、なぜか重厚な甲冑(今度はプロ仕様の特注品)に身を包み、スタジオの真ん中で豪快にピザを広げた。
「行くよ、ハル! これが私たちの『逆襲』だよ!」
ハルが鍵盤を叩くと、都会的なダンスミュージックの隙間に、リコが甲冑をガシャガシャ鳴らしながらピザを咀嚼する音が混ざり合う。 それは一見、ただのノイズだ。けれど、ハルの緻密な計算によって配置されたその音は、聴く者の本能を揺さぶる強烈な「グルーヴ」へと変わっていく。
二人が作ったその曲――タイトルは『Midnight Gluttony(真夜中の暴食)』。 それがネットに公開されるやいなや、世界中で爆発的なヒットを記録した。
「この音、中毒性がありすぎる」「お腹が空くのに、なぜか涙が出る」 世界中のリスナーが、ハルの繊細な旋律と、リコの野性味溢れる「生の音」の融合に熱狂した。
そんなある夜、仕事終わりのスタジオで、リコがふと鍵盤に触れた。 「ねえ。私たち、10年前は『残すこと』に必死だったよね。消えちゃうのが怖くて」 「……ああ。でも今は違う」 ハルはリコの手の上に、自分の手を重ねた。 「残すためじゃない。今、この瞬間を最高に面白くするために音を鳴らしてる。お前が隣にいるからだ、リコ」
リコは甲冑の隙間から、あの頃と変わらない、でも少しだけ大人びた悪戯な笑みを浮かべた。 「……当たり前でしょ。私の音を一番美味しく調理できるのは、世界中でハルだけなんだから」
二人の前には、真っ白な新しいスコア(譜面)が広がっている。 かつては「切なさ」で終わっていた春の歌が、今は終わることのない「変奏曲」として、夜の街に溶けていった。