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第2話「黒龍の真実──破壊と正義」
夜の風が止んだ。
村の外れに立つ騎士の松明が、静かに揺れている。
その炎は、まるで世界の終わりを告げる狼煙のように赤く、
私の胸の奥に不安を落とした。
私は扇子を握りしめ、
ロマを見上げた。
「……本当に、私が必要なの?」
ロマは、夜の光を受けて静かに頷いた。
その表情は、覚悟と焦燥が入り混じったものだった。
「はい。黒龍の影は日に日に強まり、
世界は今、終焉の瀬戸際にあります。
あなたの力が……どうしても必要なのです」
その声は震えていた。
恐怖ではなく、必死の祈りのように。
胸の奥で、外来人の声が響く。
──守護霊。行ってやれよ。あいつら、マジで困ってる。
(……あなたって、本当に優しいわね)
──いや、守護霊の方が優しいよ。
(……っ)
胸がまた熱くなる。
この人は、どうしてこんなに自然に心を揺らしてくるのだろう。
私は小さく息を吸い、騎士団に向き直った。
「分かったわ。王国へ案内して」
「はっ!」
騎士団は整列し、私を守るように囲んで歩き出した。
森の中は静かだった。
虫の声も、風の音も、まるで息を潜めているように消えていた。
「……黒龍の影が近いのね」
私が呟くと、銀髪の騎士がわずかに振り返った。
「はい。森の精霊たちが怯えているのが分かります。
この静けさは……嵐の前触れです」
胸の奥で外来人が反応した。
──守護霊。怖いか?
(……少しだけ。でも……あなたがいるから)
──任せろよ。俺はずっとここにいる。
(……っ)
胸がまた熱くなる。
外来人の声は、どうしてこんなに温かいのだろう。
森を抜けると、
視界が一気に開けた。
巨大な城壁が、夜空にそびえ立っていた。
白い石造りの城。
塔の先端には青い炎が灯り、
まるで星のように揺れている。
「……綺麗」
思わず呟いた。
胸の奥で外来人が笑う。
──どんなのかわからないけど守護霊、お前の心の方が綺麗だ。
「……っ」
足が止まりそうになる。
胸の奥が、熱い。息が詰まる。
(な、なにそれ……))
──本当のこと言っただけだよ。
(……っ……!)
視界が揺れた。
夜風が頬を撫でるのに、顔だけが熱い。
「……あ、あのね外来人。そういうのは……その……」
──ん?
「……覚悟して言いなさいよ……!」
──ぷんぷん?
「怒ってない!!」
怒ってない。
怒ってないけど……胸の奥がざわつく。
(……ほんとに……あなたって……ずるい子)
そのとき、ロマがこちらを振り返った。
「どうやら勇者様は、別世界の人とつながっているようですよね」
「──っ!」
心臓が跳ねた。
まるで胸の奥の“外来人の声”を見透かされたようで。
(ちょ、ちょっと……!聞こえてるの……?)
──落ち着け守護霊。声はお前にしか聞こえないよ。
(わ、分かってるけど……!)
ロマは続けた。
「先ほどから、勇者様が誰かと会話しているように見えましたので」
「か、会話なんてしてないわよ!」
(だ、誰と話してたって……自由でしょ……!)
すると、ロマは笑った。
「隠しても無駄ですよ。実は私は“心を読む能力”があるので」
「──っ!?」
扇子を落としそうになる。
(ちょ、ちょっと待って……!
心を読むって……
まさか……私の“外来人への気持ち”まで……!?)
胸の奥で外来人が響く。
──守護霊、落ち着け。お前の心、そんなに丸見えなのか?
(うるさい!あなたのせいで動揺してるのよ!!)
──俺のせいなの?
(そうよ‼)
顔が熱い。耳まで熱い。もう全部熱い。
ロマは穏やかに続けた。
「ご安心を。私は“表層意識”しか読めません。深層までは覗けませんので」
「そ、そう……なの……?」
(よかった!深層なんて読まれたら……死ぬ)
──深層って何があるんだ?
(黙りなさい!)
外来人の声が笑っているのが分かる。
もう、恥ずかしさで空に逃げたい。
ロマは真面目な顔に戻り、言った。
「ただ──勇者様が“誰かと心で会話している”ことは分かります。その相手は……別世界の存在ですね?」
「べ、別に……!
誰と話してたっていいでしょ……!」
ロマは静かに目を閉じ、
まるで風の流れを読むように、私の心を“感じ取ろう”としていた。
「そしてその人の性格は……」
「ちょ、ちょっと待って!!読まないで!!」
私は慌てて扇子で顔を隠した。
(外来人……どうしよう……!この人、本当に読んでる……!)
ロマは目を開き、ゆっくりと口を開いた。
「破天荒で、物理法則を無視した発想力……とんだ化け物ですね」
「はああああああああああああ⁉」
(な、なに言ってるのよこの人!外来人のことを……化け物って……!)
胸の奥で外来人が反応した。
──え、俺って化け物なの?
(ち、違うわよ‼あなたは……その……ちょっと変なだけで……!)
──変なんだ。
(違う!違うけど!違わないけど!でも違うの!!)
ロマは真剣な顔で続けた。
「しかし、その子は決して悪い人ではなさそうです。あなたのことをすごく大切に思っている優しい人です」
「なっ……!」
胸が跳ねた。
「あ、あれは……その……
優しくなんて……ない……!」
ロマはふっと目を細めた。
「妬ましいですが……とてもいい関係性ですね」
「なっ……!?MK5《マジでキレる5秒前》」
――あ、守護霊壊れた。
そのとき。
もう一人の今まで一言も喋らなかった無口な騎士が口を開いた。
「お前、人の心を読む能力を悪用して勇者様をからかってはいけないよ」
「えっ」
「している。お前も勇者様のこと好きなんだろ?だからからかってるのだろう、違うか?」
「なっ……!?」
ロマの顔が真っ赤になった。
「す、好きとか……!そ、そんな……!当たり前だろ……一目惚れした」
「わけわかめ!」
無口な騎士は、そこでようやくこちらを向いた。
「……申し遅れました。私の名はダイン・サツ。能力は“情報分析”。頭脳戦が得意です」
「頭脳戦……?」
私は思わず姿勢を正した。
(なんなのよ……この人まで急に核心を突いてきて……!)
胸の奥で外来人が反応した。
──守護霊、伝えとけ。“いちゃついてないで王国に行け”って。
(な、なに言ってるのよ外来人!!)
──いや、どう見てもいちゃついてるだろ。
(違う!!違うけど!!違わな……)
――もういいよ
サツが静かに言った。
「勇者様。黒龍の影は待ってはくれません。どうか……王国へ」
私は真っ赤な顔のまま頷いた。
「……分かったわ。行きましょう」
巨大な城門が静かに開いた。
白い石畳がまっすぐに伸び、
その先に──
夜の光を受けて神殿のように荘厳な王城が広がっていた。
巨大な城門が、ゆっくりと開いていく。
その動きはまるで、長い眠りから目覚めた古代の巨人のようだった。
白い石壁は月光を受けて淡く輝き、
塔の先端で揺れる青い炎は、
まるで“境界の火”のように静かに揺らめいている。
私は思わず息を呑んだ。
「……ここが、王国……」
胸の奥で外来人が反応する。
──守護霊。すげぇな……なんか、神殿みたいだ。
(……ええ。本当に……)
──でも守護霊の方が綺麗だよ。
(なんでやねん!)
顔が熱くなる。
でも、外来人の声はどこか安心をくれる。
騎士たちは無言で歩を進め、
私はその中心に立っていた。
城門をくぐると、
空気が変わった。
冷たく澄んだ風が頬を撫で、
どこか遠くで鐘の音が響いている。
まるで“別の世界”に足を踏み入れたようだった。
白い石畳がまっすぐに伸び、
その両脇には古代の戦士を象った石像が並んでいた。
「この像」
サツが説明する。
「七大龍神に仕えた“境界の守人”たちです。
王国は古来より、境界を守る者たちの加護を受けてきました」
(境界……)
胸の奥で外来人が呟く。
──わがんね
(MD《マジで黙れ》……すみません、これ以上は言いすぎました)
──全然良いよ、俺の方こそふざけてごめんなさい。
(……っ)
胸が跳ねた。
外来人の言葉は、
どうしてこんなに真っ直ぐ刺さるのだろう。
ロマが、ふっと微笑んだ。
「勇者様。
あなたの心は……とても澄んでいますね」
「な、なに急に……!」
「いえ。
あなたの“祓い”の力は、心の清さと深く結びついています。
だからこそ……黒龍に対抗できるのです」
(……黒龍……)
胸の奥が、少しだけ重くなる。
外来人が優しく声をかけてくる。
──守護霊。大丈夫だよ。俺がいる。
(……ありがとう)
その一言だけで、
胸の重さが少し軽くなった。
王城の扉は、
まるで世界の中心に立つ“神殿の門”のようだった。
白銀の装飾が施され、
中央には七大龍神を象徴する紋章が刻まれている。
赤、青、緑、黄、銀、金、白──
七つの光が淡く脈動していた。
「……これが……七大龍神の紋章……」
ロマが頷く。
「はい。
この紋章が輝くのは、龍神の力が世界に満ちている証。
しかし……最近は光が弱まりつつあります」
(黒龍の影……)
外来人が静かに言う。
──守護霊。気を引き締めろよ。
(ええ……分かってる)
私は扇子を握りしめた。
巨大な扉が、重々しい音を立てて開く。
扉が開いた瞬間、
空気が一変した。
高い天井。
壁一面に描かれた古代の壁画。
七大龍神が世界を創造する姿が、
まるで生きているかのように浮かび上がっている。
床には白銀の紋章が刻まれ、
その中心に──
白銀の鎧をまとった王が静かに座していた。
その瞳は、
長い年月を越えて世界を見つめてきた者のものだった。
騎士団が一斉に膝をつく。
「──勇者様をお連れしました」
私は一歩前へ進み、
静かに頭を下げた。
王はゆっくりと立ち上がり、
私を見つめた。
「……よく来てくれた。
白き風の守護者よ」
その声は深く、
どこか哀しみを帯びていた。
胸の奥で外来人が呟く。
──守護霊。なんか……重いな、この人。
(ええ……何かを背負っている……)
王は続けた。
「あなたが持つ《清浄の扇》──
それは、黒龍に抗う唯一の神具。
そして……
あなた自身が“境界を祓う者”であることも、
すでに伝承に記されている」
「……私が……?」
王は静かに頷いた。
「黒龍は今、
この世界と……
“そなたが繋がる世界”を同時に狙っている」
胸が強く締めつけられた。
(外来人……やっぱり……)
──守護霊。大丈夫だよ。お前がいる。
(……っ)
外来人の声が、
胸の奥を支えてくれる。
王は玉座の前まで歩み寄り、
私の前で立ち止まった。
「勇者よ。
どうか……この世界を救ってほしい。
そして──
そなたが繋がる“もう一つの世界”も」
私は扇子を握りしめた。
「……分かりました。
黒龍を倒します。
この世界のために。
そして──
あの人の世界のために」
王は深く頷いた。
「……感謝する。
そなたこそ、我らの最後の希望だ」
王は玉座の前に立ち、
深く息を吸い込んだ。
その表情は、
長い年月を背負った者だけが持つ、
静かな覚悟と痛みを宿していた。
「……勇者よ。
黒龍について、すべてを話そう」
王の声が、
広い王座の間に静かに響く。
その瞬間、
空気がわずかに震えた。
まるで“世界そのもの”が、
これから語られる真実に耳を傾けているかのようだった。
「まず、私の能力は予知夢を見る能力だ」
その言葉は、
ただの説明ではなく、
長い年月を背負った者の告白だった。
私は息を呑む。
王はゆっくりと視線を上げ、
まるで遠い過去を見つめるように語り始めた。
「黒龍が堕ちた日……
私はまだ幼かったが、
その夜、初めて“世界の終わり”を見た」
王の声は震えていない。
だが、その奥にある痛みは隠せなかった。
「夢の中で、黒龍は境界を喰らい、
いくつもの世界が音もなく消えていった。
空も、大地も、人々の記憶すら……
まるで最初から存在しなかったかのように」
私は扇子を握りしめた。
「……そんな……」
胸の奥で外来人が静かに呟く。
──守護霊。
世界が……消える……?
(……ええ……境界を喰らうって……そういうこと……)
王は静かに語り続けた。
その声は、まるで長い歴史の痛みを抱えた者のように深かった。
「黒龍は七大龍神──
赤、青、緑、黄、銀、金、そして白龍の中の一柱だった」
王座の間の空気がさらに重く沈む。
「黒龍の正体は……白龍だ」
私は息を呑んだ。
白龍──
七大龍神の中でも最も純粋で、
最も神聖な存在と伝えられていた龍。
王は続ける。
「白龍は“純白の境界”を司る龍神だった。
その白は、どんな穢れも寄せつけぬ完全なる光。
ゆえに、人々は白龍を“世界の守護者”と呼んだ」
だが、王の声はそこでわずかに震えた。
「しかし……
その純白は、人々の醜さによって汚れていった」
「欲望、憎悪、裏切り、争い──
白龍は境界を守るために人々の心を見続けた。
その果てに……
白龍は“世界そのものが間違っている”と結論づけたのだ」
私は扇子を握りしめた。
(……そんな……
白龍は……世界を守るために……)
王は静かに頷いた。
「白龍は考えた。
“世界を守るには、一度すべてをリセットするしかない”と」
「そして白龍は、
自らの白を黒へと染め、
境界を喰らう“黒龍”へと堕ちた」
その瞬間、
王座の間の空気が震えたように感じた。
「黒龍は、世界を滅ぼすために生まれたのではない。
“世界を作り直すため”に生まれたのだ」
胸の奥で外来人の声が静かに響く。
──守護霊。
それは……
ただの悪じゃないんだな。
(ええ……
白龍は……
世界を救おうとして……
間違ってしまった……)
王は深く目を閉じた。
「黒龍は、
世界の苦しみを終わらせるために、
世界そのものを消し去ろうとしている」
「それが……
黒龍の正……」
その言葉が終わるより早く。
――ズドォォォォォォォン!!
王座の間が揺れた。
床石が跳ね、
巨大な柱が軋み、
天井の装飾が崩れ落ちる。
「……っ!? 地震……?」
違う。
空気が裂けるような、
世界そのものが悲鳴を上げるような音。
次の瞬間。
王城が、真っ二つに割れた。
白い大理石の壁が裂け、
天井が崩れ、
夜空が王座の間に露出する。
冷たい風が吹き込み、
砂塵が舞い上がる。
騎士たちが叫ぶ。
「シャドウだ!!
シャドウが城を襲っている!!」
外来人の声が胸の奥で響く。
──守護霊。
来るぞ……!
私は扇子を握りしめた。
「……分かってる……!」
王が叫ぶ。
「勇者よ!!
黒龍の影が……ついに王城にまで……!!」
夜空の裂け目から、
黒い霧が渦を巻いて流れ込んでくる。
その中心に──
“影”がゆっくりと形を成し始めた。
最初は人影のようだった。
だが、すぐに違うと分かった。
影は膨張し、
輪郭が歪み、
天井に届くほどの巨体へと変わっていく。
胸の中心にだけ、
裂けた“黒龍の眼”が浮かび上がった。
ギラリ。
王座の間の空気が凍りつく。
「……あれは……」
サツが震える声で呟いた。
「シャドウ……ではない……
あれは──“巨影(ジャイアントシャドウ)”……!」
ロマが叫ぶ。
「黒龍の影の……“親”……!?
こんな……規模の……!」
無口な騎士でさえ、
わずかに目を見開いた。
「……これは……
勇者様が祓った“あの影”とは……格が違う……」
胸の奥で外来人の声が響く。
──守護霊。
あれ……ヤバい。
今の守護霊じゃ……勝てない。
(……分かってる……でも……)
巨影はゆっくりと顔のない頭をこちらへ向けた。
胸の“黒龍の眼”が、
まるで何かを探すように揺らめく。
その瞬間──
私は気づいた。
(……この気配……
どこかで……感じた……?)
巨影の胸の奥から、
かすかに“声”が漏れた。
「……ア……アァ……」
それは、
さっき祓ったシャドウが消える瞬間に残した声と──
どこか似ていた。
(……まさか……
あの子の……)
外来人が息を呑む。
──守護霊。
あれ……“父親”かもしれない。
(……っ)
巨影は一歩踏み出した。
その足音だけで、
王座の間の床が砕ける。
王が叫ぶ。
「勇者よ!!
あれは黒龍の“影の投影”!!
本体ではない……倒せぬ!!
逃げよ!!」
巨影が腕を振り上げた。
影の腕が天井を裂き、
夜空がさらに広く露出する。
砂塵が舞い、
騎士たちが吹き飛ばされる。
私は扇子を構えた。
(……来る……!)
外来人が叫ぶ。
──守護霊!!
今は戦うな!!
あれは……桁が違う!!
(でも……!)
巨影が私に向かって影の腕を振り下ろす。
その瞬間──
扇子の白い布が、
ふっと光を放った。
祓いの光。
巨影の動きが止まる。
胸の“黒龍の眼”が、
わずかに揺れた。
「……ア……アア……」
その声は、
怒りでも憎しみでもなかった。
迷い。
戸惑い。
そして──
“懐かしさ”のような響き。
(……あなた……
あの子の……)
巨影は一歩後退した。
祓いの光に触れた影が、
まるで“痛み”ではなく
“温かさ”に驚いたように震える。
「……ア……アァ……」
次の瞬間、
巨影は夜空へと跳び上がり、
黒い霧となって消えた。
王座の間に静寂が戻る。
王が呆然と呟いた。
「……祓いの光に……反応した……?
勇者よ……
そなたの力は……黒龍に届く……!」
私は扇子を握りしめたまま、
震える息を吐いた。
胸の奥で外来人が静かに言う。
──守護霊。
あれ……敵じゃない。
“救われた影”の……親だ。
(……ええ……
きっと……)
私は夜空の裂け目を見上げた。
(……あなたの子は……
私が救ったわ。
次は──
あなたの番よ)