休憩時間の間磯山は注意深く辺りを見回していた。弘人が来るかもしれないので警戒している。
その時携帯に着信があり磯山は廊下に出て電話に出た。
磯山が電話を切った時ちょうど休憩時間が終わったので磯山もまた会場内へ戻った。
そして最後の質問コーナーが始まった。
「では、水野先生に質問がある方は挙手をお願いしまーす」
司会者がそう呼びかけると一斉に手が挙がる。
「じゃあそこの一番右の方!」
司会者が選んだ女性へマイクが渡された。
「総務部の前田と申します。私は水野先生の一作目からの大ファンで映画は4回観ました」
「うわぁ4回も? ありがとうございます」
「そこで質問なのですが、小説の中の恋人達のセリフは簡単に思い浮かぶものなんでしょうか? 小説内での会話がとても自然なのでどうやって作り上げているのか教えていただけると嬉しいです」
「そうですね、セリフは割と自然に浮かんできますね。私は書きながら感情移入しちゃうタイプなので入り込むとすぐに会話が浮かんできます。ただ感情移入し過ぎるのも困ったもので本当は失恋していないのにズーンと気分が落ちちゃったり? 結構物語に振り回されて実生活がしんどい時があります」
それを聞いた参加者達からはどっと笑いが起こる。
それからいくつもの質問が理紗子に投げかけられた。休日は何をしているかや映画化した作品いついての質問など種類も様々だ。理紗子は一つ一つ丁寧に答えていった。
そしていよいよ最後の質問になる。
「えー、では最後の質問です。質問がある方は挙手をお願いします」
「あ、じゃあそこの左から三番目の方」
理紗子は司会者が選んだ女性の方を見る。そしてその顔を見て一瞬身体が硬直した。
最後に選ばれたのはなんと坂本弘人を理紗子から奪った後輩の細田留美だった。
理紗子は一度大きく深呼吸をしてから気持ちを落ち着ける。そして心の中で呟く。
(私は負けない、絶対に負けない)
そして背筋を伸ばして留美を観察した。すると留美はなんだか昔と様子が違う。
弘人を奪った頃の留美はもっと華奢で色気があり男性の目を惹きつける魅力に溢れていた。
当時の理紗子は「完敗」と思ったほど留美には『魔性の女』の雰囲気が漂っていた。
しかし2年ぶりに会った留美はあの頃の面影はまったくなかった。
太ったせいか身体のラインは崩れ化粧は厚くなり当時の美しさはどこへやらといった感じだ。
留美は理紗子よりも2年後輩なのでまだ27歳のはずなのに理紗子よりも老けて見えた。
その時理紗子は先日再会した弘人の太った身体を思い出す。
(2人で太った?)
それは二人の恋が上手くいっていない事を表していた。
(イケる。これなら勝てるわ!)
留美を見て自信を得た理紗子は留美からの質問を待った。
「えっとぉ、営業部第二課の細田です。水野さんは恋人に振られた経験がおありですか? もしあるなら振られた時の気持ちを教えて下さい。また現在恋人がいるかどうかも教えていただけると嬉しいです」
すると会場内が一気に騒めく。なぜなら留美が人気作家に恋人はいるかというぶしつけな質問をしたからだ。
その常識のなさに皆驚いているようだ。
理紗子が同期二人の方を見ると、
『あいつとんでもない女だから適当にかわした方がいいよ』
というようなジェスチャーを投げかけてくる。どうやら彼女の社内での評判はあまり良くはないようだ。
そこで司会者が慌ててフォローする。
「あっ、あまり私生活に踏み込んだ質問はご遠慮…….」
そこで理紗子が遮るように言った。
「大丈夫ですよ」
理紗子は問題ないといった様子で話し始めた。
「まず振られた経験についてですがもちろんあります。それはとんでもない振られ方でした。今だから笑って言えますが当時付き合っていた男性は二股をかけていたんです。でもそれを隠したまま私に別れたいと言ってきました。そして別れた直後に彼が私の後輩と付き合っていた事を知りました。その時はかなりショックでしたねー」
会場からはこんな声が聞こえてくる。
「それは酷い!」
「最低の男ね!」
皆理紗子に同情しているようだ。
「で、振られた時の気持ちについてですが、振られた直後はもちろんしんどかったですよ。でもそれもほんの一瞬の事でした。振られた直後にちょうど趣味で書いていた小説がコミカライズしその後書籍化したんです。そして更に映画化しました。だから辛かったのはほんの一瞬でしたね。その後はバタバタと忙しくなり失恋で落ち込んでいる時間もありませんでしたから」
理紗子は楽しそうに微笑む。
「失恋を仕事の糧にしたのねー」
「ダメ男と縁を切ったら夢が舞い込んできたのね」
「理紗子先生かっこいい」
会場からはこんな声が漏れてくる。
しかし細田留美だけは不機嫌そうにムスッとしている。そして留美はマイクを握り直すともう一度言った。
「では3つ目の質問についてもお答えいただけますか?」
留美はニヤッと笑った。その表情を理紗子は見逃さなかった。
おそらく留美は理紗子に恋人がいないと思っているのだろう。
恋愛小説を書いている恋愛小説家には恋人もいない、それをこの場で明らかにして恥をかかせるつもりなのだろう。
留美の意図がわかった理紗子は一呼吸おいてから言った。
「私に今お付き合いをしている人がいるかどうかについてですが…」
その時会議室の前方のドアが勢いよく開いた。皆が一斉にドアの方を見る。
するとなんと開いたドアからは健吾が入って来るではないか。
理紗子は驚いて口をポカンと開ける。
健吾は質の良いチャコールグレーのストライプのスーツにパリッとした白のワイシャツ、そして胸ポケットには洒落たポケットチーフを入れまるでモデルのように洗練されたスタイルで理紗子の隣までやって来た。
そのスーツの色味は理紗子のワンピースに合っている。
(わざわざ合わせて来たわね)
理紗子はそう思いながら健吾を見る。
すると健吾は茶目っ気たっぷりの瞳で理紗子を見つめ返す。
会場内の女性社員達が一斉に歓声を上げる。どうやら皆健吾の事を知っているようだ。
今月号のファッション雑誌『shine』には理紗子が書いたコラムと健吾のインタビュー記事が載っているのでおそらくそれを見て知っているのだろう。
今入って来た人物が本物の佐倉健吾だとわかった女性達からは更に大きな歓声が上がった。
歓声はあまりにも大きく悲鳴に近いので会議室内は騒然となる。
司会の女性は突然のハプニングにどうしていいかわらかないようだった。
すると健吾は優しく理紗子の肩を抱き寄せると理紗子からマイクを奪って言った。
「どうも、水野リサの恋人の佐倉健吾です」
「「キャーーーーーッ!!!」」
会場内から大歓声が上がりしばらくの間騒然とした状態が続いていた。
あまりにもすごい歓声が会議室から響いて来たので廊下を歩く男性社員達が会議室内を覗き込んでいる。
そこで調子に乗った健吾が言った。
「私にも質問があればどうぞー」
そこでまた「キャーッ」という悲鳴が上がり女性達が一斉に手を挙げた。
健吾はその中の一人を指名する。
「えっと、お二人がお付き合いするきっかけは? またどちらから先にアプローチしたのですか?」
「付き合うきっかけは私の一目惚れですね。アプローチしたのももちろん私からです」
健吾はキラースマイルを浮かべながら答えると質問者に軽くウインクをする。
その瞬間再び会場内から、
「「キャー―――――ッ♡」」
という歓声が沸き起こる。
会議室のドアから覗いていた男性社員の数はさらに膨れ上がりとうとう会議室内に入って来て堂々と健吾の話を聞き始める社員もいた。
そして健吾は質問一つ一つに丁寧に答えながらさりげなく二人のラブラブぶりをアピールしていった。
健吾が話をしている間理紗子はさりげなく留美の様子を観察する。
すると留美は悔しさのあまり顔が引きつっていた。
どうやら留美は理紗子が健吾と親しいという事を弘人から聞いていないようだ。
そんな留美を哀れに思いながら理紗子は時折健吾と見つめ合い微笑む。
理紗子はあの頃のみじめな理紗子とは違う。今ここにいる理紗子は健吾から惜しみなく注がれる愛情によってすっかり自信を取り戻していた。
そして理紗子は恋も仕事も充実した素敵な大人の女性に変貌していた。
コメント
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やっぱり〜〜健吾登場✨✨🕺🕺🧡🩷 黙って見てんはずないと思ったけど、理沙ちゃんの雄弁の後の留美の答えを遮るように出てきて服も理沙ちゃんとペアにして「水野理沙の恋人です🩷」なんて確信犯でもうキュンキュン🫰🫰💘 弘人と留美は付き合ってデブ化したけど、理沙ちゃんと健吾は2年前の辛い経験を糧に健吾に口説かれ愛し愛されスレンダーに美しく憧れのカップル👩❤️💋👩に変身したのよ😊👍🩷✨ もう2人の邪魔はさせない❣️❣️
キャアー( 〃▽〃)♡健吾さんキタ━(゚∀゚)━!♡♡♡ お洋服まで合わせてきて、もぅ~ラブラブなんだから....コノォ~👩❤️👨❤️🤭 幸せになりたかったら、努力をしないと✊‼️ ....そんな人を貶めようとかマウントを取ろうとか、醜いことばかり考えている時点で 留美さん、 貴女の敗けですよ~w
キャ─(*ᵒ̴̶̷͈᷄ᗨᵒ̴̶̷͈᷅)─♡健吾ぉ〜🫶🫶🫶 理紗子ちゃんとお洋服合わせてきたなんて!もうもう🐮う〜✨ やっぱり好ーき〜(ꈍᵕꈍ)σ☆━━━チュキチュキビーム♡♡ キラースマイルされたい゚+。:.゚おぉ((💗ᵕ💗))゚ぉぉ゚.:。+゚゚ 瑠美見たか〜っ!!!!!バンザーイ!!!!!