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八王子駅へ送ってもらう車の中で、航太郎が賢太郎に言った。




「俺がいない間、母ちゃんをよろしく頼みます」

「お? どうした? 急に改まって……」

「うん……実は、去年も俺、長野に行ったんだけど、そのとき、なんだか母ちゃん淋しそうだったから……」

「なるほど。母と息子の二人家族だと、ちょっと息子がいなくなるだけでも淋しいんだろうなぁ」

「そんな気がする。去年までは俺、反抗期のイライラで、結構母ちゃんにきつく当たってたんだけど、それでも淋しいって思ってくれたみたいでさ。ちょっと反省しちゃったよ」




航太郎の言葉を聞き、思わず賢太郎は優しい表情になる。




「そっか。じゃあ、長野から帰ってきた時はすごかった?」

「すごかったなんてもんじゃないよ。キスされそうな勢いだったんだから」




賢太郎は、思わず声を出して笑った。




「そりゃ、大歓迎だな」

「参ったよ、チューだけは勘弁してほしい!」

「ハハハ。まあ、母親にとってはさ、息子はいくつになっても可愛いんだよ」

「そうなの?」

「そう。それだけ、航太郎は葉月に大事に思われてるってことだよ」

「それは、十分わかってるよ」




航太郎は、照れたように笑った。

すると、今度は賢太郎が改めて航太郎に言った。




「実はさ、航太郎には、男同士きちんと話しておきたいことがあるんだ」

「何?」

「お母さんのこと」

「うん、だから何?」

「俺は、航太郎のお母さんのことを、真剣に好きになってもいいかな?」




突然そう聞かれた航太郎は、一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔で答えた。




「もちろん、いいに決まってるさ! ……っていうか、え? これから好きになるの? まだ、好きじゃなかったの?」

「いや、今もちゃんと好きだよ。ただ、これからは、もっともっと好きになるっていうこと!」




その言葉を聞き、航太郎はさらに嬉しそうに顔を輝かせながらこう言った。




「やった! 俺はずっとそれを期待してたの!」

「そうか? でも、ちょっと真面目に考えてみて! もし俺が航太郎のお母さんをもっと好きになったら、結婚するかもしれないぞ? そうなると、俺は君のお父さんになるんだ」




航太郎はその言葉を聞いて、一瞬緊張した顔をした。




「賢太郎さんが、俺のお父さんに……?」

「そう」




すると、航太郎は、顔をぱっと輝かせて答えた。




「もちろん、いいに決まってるじゃん! 大歓迎だよ!」

「あはは、あまりにもあっさり歓迎されると、拍子抜けしちゃうなぁ。でも、しっかり聞いて! もし俺が葉月と結婚することになったら、赤ちゃんができる可能性もある。つまり、航太郎に弟か妹ができるかもしれない。それでも大丈夫?」




それを聞いた航太郎は、賢太郎の意図をすぐに察したようだ。




「賢太郎さんが心配してるのは、つまり、赤ちゃんができたら、俺がやきもちを焼いて赤ちゃんをいじめるんじゃないかってこと?」

「いや、その逆。航太郎が弟や妹に遠慮して、葉月や俺に甘えられなくなるんじゃないかなって心配してるの!」

「えっ? 俺のことを心配してくれてるの?」

「そうだよ。君はいろいろと気を遣い過ぎるところがあるからなぁ……」




賢太郎の言葉に、航太郎は胸がいっぱいになる。




「なんでわかったの?」

「そりゃ、見てればわかるよ」

「すごいな、賢太郎さんは」

「まだ中学生なんだから、あんまり周りに気を遣わなくていいんだぞ」

「俺、自分ではそんなに気を遣ってるとは思わないけど……」

「俺から見たら、十分遣ってるよ。だから、俺が家族になったら、航太郎はまた余計な気を遣うことになる。俺はそれを心配してるの」

「…………」




航太郎が何も言い返さないので、賢太郎は「あれ?」という顔をして、助手席をチラリと見た。

すると、航太郎が目を真っ赤にして、泣くのをじっとこらえていた。




「泣きたきゃ泣いていいぞ。今までいっぱい我慢してきたんだから」

「うっっ…………」

「葉月には言わないから」

「うぅっっ……くぅっ……」




泣くのを必死にこらえていた航太郎は、ついに耐えきれなくなり、堰を切ったように泣き始めた。




「ああーっっ……ううっっ…………ひっく……ううっ」




嗚咽を漏らしながら泣く航太郎の頭を、賢太郎が左手で優しく撫でた。

その手のひらの優しさを感じ、航太郎の泣き声はさらに大きくなる。




「もう我慢しなくていいから。これからは、俺が航太郎と葉月を守るよ……」

「うぅっ…………ほ、本当?」

「ああ、約束する」

「うわぁぁぁぁーーーん………」




車内には、航太郎の切ない泣き声が響いていた。

そんな航太郎の背中を、賢太郎は優しくトントンと叩いた。





しばらくして、泣きやんだ航太郎は、ティッシュで鼻をかみながらこう言った。




「うちのお母さんは、普段は明るくふるまってるけど、ときどきすごく淋しそうな顔をするんだ。それは全部あいつのせい。だから、今度は絶対、幸せになってもらいたいんだ」

「わかったよ。俺が君たちと出逢ったのも、運命かもしれない……。だから、心配しないで」




それを聞いた航太郎は、ホッとした様子でうんと頷く。そしてこう言った。




「じゃあ、俺がいない間はデートとかいっぱいして仲良くなってね。で、ちゃんとお母さんにプロポーズもしてよ!」

「いきなりプロポーズ? 参ったな……それはちょっと急すぎない?」

「いいの。こういうのは早い方がいいでしょ? うちのお母さん、結構気まぐれだし」

「たしかに、気まぐれは困るなぁ。まあ、最大限の努力はしてみるよ」

「よろしくね! 俺、楽しみにしてるから!」

「了解! 頑張ってみるよ!」




二人は顔を見合わせると、楽しそうに声を上げて笑った。

恋人の条件 ~恋に懲りたシングルマザーですがなぜか急にモテ期がきました~

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コメント

35

ユーザー

真面目な賢太郎様 航太郎君にもきちんと向き合って気持ちを伝え合って良い感じですね やはりお父さんになるという事は責任を持って守るという事なのですね

ユーザー

航太郎くんは、大人だね〜葉月さんも航太郎くんも賢太郎さんも幸せになって欲しい!

ユーザー

やばい、めっちゃ泣ける。 賢さまと航ちゃんの男同士の会話に胸が熱くなった:(,,ŏ ŏ ,,): 葉月さんには旦那さま(予定)の賢さまと息子の航ちゃん、二人の王子様が居るんだね。  いつも想ってくれて、守ってくれる素敵な王子様二人✨️ 息子ってねー、いくつになっても可愛いんだよ。 娘は生意気なんだけどさw 私、今でも息子にハグしたくなる事 あるからな〜w 葉月さんの気持ち分かるよ。

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