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#王子
すっこ
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#主人公最強
杯雪乃
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「あなたの出生届よ」
榊原美佐子の言葉が、頭から離れなかった。
母が十五年前、会社から持ち出したもの。
私の出生届。
そんなものが、なぜ母の勤務先にあったのか。
そもそも出生届は役所へ提出するものだ。
会社に保管される理由なんてない。
「水城さん」
真壁刑事に呼ばれ、私は顔を上げた。
「一度、市役所へ戻りましょう」
「自分の戸籍を確認します」
「今日はあなた自身で端末を触らない方がいい」
「どうしてですか」
「すでに内部調査が始まっています」
胸がざわついた。
「私が疑われてる?」
「そういう意味ではありません」
「じゃあ」
真壁が榊原を見る。
「高瀬さんの未来の死亡届を登録した人間が、役所内部にいる可能性があります」
私は黙った。
確かに。
外部の人間が勝手に戸籍システムを書き換えるより、内部の人間が操作したと考える方が自然だ。
そして私は戸籍課職員だ。
疑われない方がおかしい。
榊原が小さく言った。
「澪ちゃん」
「はい」
「千佳を疑わないで」
私は振り返った。
「母は『この七人に殺された』って書いていました」
「それは本当よ」
「でも死亡通知も持っていた」
「だからって、千佳が送ったことにはならないでしょう」
言われて、言葉に詰まった。
確かに私は一度も、
母が死亡通知を書いているところを見ていない。
ただ、母の家から出てきた。
それだけだ。
*
市役所へ戻ると、佐伯課長が待っていた。
会議室には真壁と、見知らぬ男性職員が二人。
机の上に透明な袋が置かれていた。
中には、高瀬の死亡通知。
「これ、警察に渡したんですか」
「会社に届いた方だ」
真壁が言った。
母の家から見つかった七枚とは別。
「簡易鑑定の結果が出ました」
「何が分かったんですか」
「この紙から、水城千佳さんの指紋は出ていません」
私は瞬きをした。
「手袋をしていた可能性もあります」
「もちろん」
真壁は頷く。
「ただし、もっと分かりやすいものがある」
透明袋の中の封筒を指す。
「裏を見てください」
私は目を凝らした。
封をした部分。
黒い糊。
「これが?」
「封筒はテープ式です」
「はい」
「メーカーに確認しました。この型が販売されたのは今年の六月から」
母が死ぬ二か月前。
それだけでは否定にならない。
「母が買ったかもしれません」
「次です」
真壁が高瀬の会社の防犯カメラ画像を出した。
「死亡通知が郵便受けに入ったのは八月三十一日、午前二時十四分ごろと推定されています」
「母が死んだあと……」
「四日後です」
私は画面を見る。
人影はない。
だが封筒は、午前二時十三分にはなかった。
二時十五分には入っている。
「誰かが映像を加工した?」
「その可能性を調べています」
佐伯が低い声で言った。
「千佳さんには無理だ」
分かっている。
死んだ人間は、封筒を届けられない。
それでも私は言った。
「誰かに頼んでいたのかもしれない」
真壁は否定しなかった。
「それも考えています」
「じゃあ、母ではないとは言い切れない」
なぜか私は母を庇っていた。
昨日まで、母が全部仕組んだと思っていたのに。
「水城」
佐伯が一枚のコピーを差し出した。
「これを見ろ」
母の手帳だった。
十五年前。
六月二十日のページ。
失敗した。
その下。
今まで気づかなかった薄い跡がある。
鉛筆で書いて、消しゴムで消したらしい。
光に透かすと文字が読めた。
また届いた。
私は息を止めた。
「また?」
佐伯が言う。
「十五年前、千佳さん自身も受け取っていたんだ」
「死亡通知を?」
「ああ」
真壁が古い資料を置いた。
一枚の封筒。
写真だった。
黒い縁。
縦書きの文字。
死亡通知書在中。
今のものと、ほとんど同じ。
「これはどこから?」
「十五年前の警察資料です」
「警察に残ってたんですか」
「相原奈緒さんの事故現場から回収された遺留品の写真です」
私は写真を拡大した。
宛名。
水城千佳様。
「母宛て……」
死亡通知は、母が作ったものではなかった。
少なくとも十五年前。
母自身が受取人だった。
私は椅子に座った。
「じゃあ母は……」
七枚の死亡通知を持っていた理由が変わる。
送るためではない。
集めていた?
証拠として?
「母は、誰かから死亡通知を送られていた」
真壁が頷く。
「可能性は高いです」
「じゃあ『私は、この七人に殺されました』っていうのは」
「死亡通知を作ったという意味ではないでしょう」
私は母の紙片を思い出した。
私は、この七人に殺されました。
あれは遺言。
告発。
そして、もしかすると――
助けを求める言葉だった。
母から最後にかかってきた電話。
死ぬ二日前。
私は出なかった。
胸が痛んだ。
「水城さん」
真壁の声で我に返る。
「まだあります」
「何がですか」
「十五年前、水城千佳さんに送られた死亡通知」
真壁が写真を裏返した。
裏面にも文字がある。
手書きだった。
七人の中から一人選べ。
その下。
選ばなければ、あなたの娘が死ぬ。
私は声を失った。
娘。
私だ。
「母は……私を守ろうとしてた?」
誰も答えなかった。
そのとき、会議室のドアが開いた。
若い職員が入ってきた。
「佐伯課長」
「どうした」
「例のアクセス履歴、出ました」
職員が紙を差し出す。
佐伯が見る。
顔色が変わった。
「誰のIDだ」
「間違いありません」
私は立ち上がった。
「何ですか」
佐伯は答えない。
紙を奪うように見る。
高瀬隆志の死亡情報。
登録日時。
八月三十一日、午前二時十四分。
使用された職員ID。
私はその番号を知っていた。
毎日使っている。
「……嘘」
そこに表示されていた職員名は、
水城澪。
私だった。
「私じゃない」
真壁が黙って私を見る。
「その時間、私は母の家にも役所にもいません」
「分かっています」
「じゃあ誰が」
答えはない。
私はアクセス記録を見る。
さらに下に、もう一件あった。
同じ私のID。
九月一日、午前二時十四分。
新しい死亡情報が登録されている。
対象者。
榊原美佐子。
死亡予定日。
九月七日。
そして登録者。
水城澪。
私は一歩後ずさった。
死亡通知を送ったのは、母ではない。
母は死んでいる。
なら、
十五年前から死亡通知を送り、
今は私のIDを使って死者を登録している人間がいる。
「水城さん」
真壁が静かに言った。
「犯人は、あなたのお母さんではありません」
私は紙から目を離せなかった。
「じゃあ……誰なんですか」
真壁は答えなかった。
代わりに佐伯が呟いた。
「一人いる」
私は顔を上げた。
「誰ですか」
佐伯の手が震えていた。
「十五年前にも、千佳さんの名前を使って死亡届を出した人間がいる」
「だから誰なんです」
佐伯は私を見る。
「その人間は――」
一度、言葉を切った。
「十五年前に死んでる」
コメント
1件
うわ、この展開…! 一気に核心に迫ってきた感じがしますね。澪さんのIDが使われてて、しかも榊原さんまで標的にされてる…。一番ゾッとしたのは「十五年前に死んでる」って佐伯課長の最後の言葉です。澪さんの母親がただの被害者でもあり、同時に何かを知っていた側でもあったっていう二重構造がすごく好きです。続きが気になりすぎます!