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パルテナは、本当に見に来た。
しかも翌日にはもうシェルターへ現れた。駅前から橋の下まで、わざわざ靴を汚して下りてきたことが不思議なくらい、彼女はいつも通り綺麗だった。
「こんにちは」
挨拶だけはきちんとしている。
その丁寧さが逆に怖い。
モルリが腕を組んだまま返す。
「暇つぶしの人だ」
「覚えてくれて光栄」
パルテナは笑って、勝手に一番ましな椅子へ座った。
デシアは『春の音』の途中までを読み、ヌバーが合いの手みたいに役を分け、ホレが進行を見守る。サベリオは照明の位置を直すふりをしながら、ずっとパルテナの反応を気にしていた。
彼女は笑わない。
つまらなさそうにも見えない。ただ、人の心の柔らかいところを探すみたいな目で聞いていた。
読み終わると、ヌバーが大げさに礼をする。
「以上、穴蔵プレ公演でした」
モルリが小声で「まだ公演してない」と突っ込んだ。
パルテナは拍手をしなかった。代わりに、少し首を傾ける。
「思ったより、ちゃんとしてる」
「褒め方が下手」
モルリが即座に言う。
「下手でも本音よ」
パルテナは平然としていた。
それから、シェルターの天井、濡れた床、積まれた道具、人数の少なさを順番に見回す。
「でも、ここで青春ごっこしてるだけじゃ、勝てない」
その一言が、空気に針を落とした。
モルリの顔色が変わる。ヌバーも笑いを引っ込めた。ホレは息を吸って、飲み込む。
ミゲロだけが黙って木材を運び続けていた。
サベリオは咄嗟に何も言えなかった。腹が立たないわけではない。けれど、言葉の半分くらいは現実を含んでいると分かってしまうからだ。
パルテナは、その沈黙ごと見ていた。
「舞台は古い。客席は少ない。主役も決まってない。これで本命組に勝つつもりなら、よほど別の武器が要る」
「だったら帰って」
モルリが言い返す。
パルテナは立ち上がり、服の裾を払った。
「帰るわ」
そして出口へ向かいかけて、足を止める。
振り返らないまま、ぽつりと言った。
「でも脚本は惜しい」
全員が息を止めた。
パルテナは今度だけ、少しだけデシアの方を見た。
「雨の音を、人の気持ちみたいに聞かせる書き方。あれはいい」
デシアが言葉を返せない。
褒められたはずなのに、むしろ胸の痛い顔をしていた。
パルテナはそれ以上説明せず、石段を上がっていく。
残された空気の中で、モルリが唸る。
「褒めたのに腹立つの、何で」
誰も答えられなかった。
ただ、デシアだけが、閉じた台本へしばらく触れたまま動かなかった。