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蓮司の相談室２

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蓮司の相談室２

第61話 - 第61話　“ちゃんとしてる人”扱いされるのがしんどい

29

2025年12月13日

#BL

#一次創作

#お悩み相談室

#短編

#読み切り

#ドラマ

ruruha

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ドアがノックもなく開いた。

「お邪魔しまーす」

「邪魔だって言ったら帰る？」

「一応、相談しに来てる体ではある」

「体だけな」

蓮司は机に頬杖をついたまま、ちらっと見る。

相談者はいつもの顔。けど、今日は鞄を抱えたまま立っている。

「座らないの？」

「いや……なんか落ち着かなくて」

「ちゃんとしてる人アピール？」

「やめろ」

苦笑いしながら、結局椅子に腰を下ろす。

「なあ。俺さ、“ちゃんとしてる人”扱いされるの、地味にキツい」

「地味って言うな。派手にキツいだろ」

「ほら、そういうとこ」

相談者は天井を仰いだ。

「真面目だね、とか。頼りになるね、とか。

最初は悪い気しなかったんだけどさ」

「逃げ道なくなるやつ」

「そう、それ。

一回そう見られると、崩れた瞬間に“どうしたの？”ってなる」

「期待が乗っかる音がするな」

「やめて、リアルだから」

蓮司は肩をすくめる。

「で？　今日はどこで無理した」

「昼休み。

ほんとは一人でいたかったのに、“一緒に食べよ”って言われて断れなかった」

「断ればよかったじゃん」

「それができたら来てない」

「正論は不採用か」

「不採用」

相談者は指で机をトントン叩く。

「“ちゃんとしてる人”ってさ、

休むと裏切りみたいな空気出るのが嫌なんだよ」

「勝手に役割押し付けられてる感じ？」

「それ。

俺、別にリーダー志望じゃないし」

「立候補してないのに当選したタイプ」

「笑えねぇ」

蓮司は少しだけ口角を上げた。

「ちゃんとしてる人って、

実は一番サボり下手なんだよな」

「それ慰め？」

「観察結果」

相談者は一瞬黙ってから、ぽつりと零す。

「……本当はさ。

だらしない日もあるし、投げ出したい日もある」

「人間だな」

「でも、それ出したら“らしくない”って言われる気がして」

「“らしさ”って便利だよな。

他人が勝手に決めて、本人が縛られる」

「蓮司、たまに鋭いこと言うよね」

「たまに、な」

少し笑ってから、相談者は深く息を吐いた。

「俺、ちゃんとしてない自分を見せたら、

今の関係全部壊れそうで怖い」

「壊れる関係は、もともと“ちゃんとしてるお前”しか見てない」

「……それ、きつい」

「事実はだいたいきつい」

沈黙。

でも重くはない。

「じゃあさ、どうすりゃいい」

「全部崩せとは言わない」

「ほう」

「一か所くらい、だらけていい場所作れ。

ここでもいいし、別でもいい」

「ここ、だらけていいの？」

「俺が一番だらけてる」

「それは否定できない」

相談者は立ち上がり、鞄を肩にかけた。

「……まあ、今日はちょっと楽だったわ」

「気のせい」

「そういうことにしとく」

ドアの前で振り返る。

「また来ていい？」

「暇なら」

「言い方」

ドアが閉まる。

蓮司は一人になった相談室で、ペンを回しながら小さく呟いた。

「ちゃんとしてなくても、席は残してあるんだけどな」