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第90話 テレビの話
昼休みの教室。
机は低く、椅子は軽い。
壁は灰色で、天井の照明は淡緑に調整されている。
窓の外は見えにくく、光だけが均一に入ってくる。
床に座っている子どもたちは、年齢では分けられていない。
安心段階も、この場では表示されない。
少し背の高い子が、足を投げ出して言う。
薄い水色の上着。袖口はすり切れている。
髪は短く、寝かせたまま整えられている。
「ぼく、船の番組がすき」
それだけで、何の番組か通じる。
船八千倍。
いろんな州の港を順番に映す番組だ。
大型船が接岸する映像を、一定の速度で流す。
波の音は補正され、港の人の声は抑えられている。
「港ってさ、全部ちがうんだよ。
でも動きは同じで、安心する」
そう言って、満足そうにうなずく。
隣に座る子は、少し猫背。
灰のパーカーに、サイズの合っていないズボン。
視線はいつも斜めだ。
「法律のやつ、家でついてる」
安心法定放送のことだと、誰もが分かる。
「ちゃんとは見ないけど、
音だけ聞いてる。
全部わかると、こわいから」
その言い方に、誰も笑わない。
それは変な感想ではない。
少し離れたところで、声が弾む。
黄緑のインナーに、淡緑の上着。
靴のかかとを床に打ちつけながら、身を乗り出す子たち。
「サムライ・カタシン、昨日の見た?」
一気に空気が変わる。
サムライ・カタシン。
少年マガジン枠のアニメ。
毎週決まった時間に放送され、
サムライとニンジャが並んで戦う。
「カタシンの技、あれ反則じゃない?」
「でも安心五隊だからいいんだよ」
「森守隊の回、作画よかった」
制服も私服も関係なく、
みんな身振りが大きくなる。
画面の中のサムライは、迷わない。
命令ははっきりしていて、
敵は分かりやすい。
現実より、ずっと整理されている。
教師が入ってくる。
淡緑の上着。
髪は後ろでまとめられ、装飾はない。
話題を止めることはしない。
「そろそろ戻るよ」
その一言だけ。
子どもたちは立ち上がる。
船の話をしていた子は、まだ港の映像を思い浮かべている。
法律の子は、今夜も音だけ聞くつもりだ。
サムライの子たちは、次回予告をもう一度語る。
大和国では、
テレビは娯楽でもあり、教育でもあり、確認でもある。
何を好きでもいい。
ただ、ついていることが大事だ。
画面が流れ、
声が流れ、
物語が流れる。
子どもたちは、
その中で、自分の居場所を覚えていく。
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