テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
技術の授業。
はんだごての匂い。
焦げた金属と、樹脂の混ざった匂いが、教室に薄く残っている。
各自の机。
それぞれが作業している。
静かじゃない。
でも、騒がしくもない。
“普通の授業”の音。
後ろ。
少しだけ、空気が違う。
「てかさ」
軽い声。
「最近あいつ、全然反応なくね?」
笑いが小さく混じる。
「分かる」
「何やっても無言じゃん」
重なる。
「前はさ」
別のやつが言う。
「もうちょい声出てたよな」
思い出すみたいに。
「あー、出てた」
「でも、この前のやつ」
すぐに繋がる。
「半田ごてのとき」
誰かが言う。
笑い。
「あれ普通に出てたよな」
軽く。
共有される。
“面白かった記憶”として。
一瞬、間。
でも、その間で決まる。
「じゃあさ」
声が続く。
「今回もそれでよくね?」
軽い。
提案。
でも、否定は出ない。
「授業中だし、ちょうどいいじゃん」
「バレねえし」
笑い。
自然に理由が揃う。
前。
作業を続ける。
手元。
はんだごて。
熱。
分かっている。
でも、後ろの空気が、近づいてくる。
「なあ」
耳元。
近い。
「ちょっと貸せよ」
手元から取られる。
一瞬で。
抵抗する前に。
「お前さ」
続く。
「ちゃんとやれよ?」
軽い声。
でも、意味は違う。
腕を掴まれる。
強く。
引かれる。
椅子が鳴る。
周りの何人かが、一瞬見る。
でも、すぐに戻る。
作業に。
「大丈夫大丈夫」
誰かが言う。
笑いながら。
「ちょっとした確認だから」
軽い。
でも、止める声はない。
机の間。
囲まれる。
完全に。
外からは見えにくい位置。
「最近さ」
誰かが言う。
「静かすぎてつまんねえんだよ」
笑い。
軽い。
でも、逃げ場がない。
「ほら」
背中を押される。
机に。
前屈みになる。
支えられない。
そのまま固定される。
「ちゃんと反応しろよ?」
低く。
でも、笑ってる。
服を掴まれる。
背中側。
引かれる。
一瞬、止まる。
その瞬間、
「止まんな」
腹に一発。
息が抜ける。
布が上がる。
背中が露出する。
空気が触れる。
冷たい。
でも、すぐに熱が近づく。
「いくぞ」
軽い声。
まるで確認みたいに。
半田ごてが近づく。
ゆっくり。
わざと。
逃げられない距離で止まる。
「声出せよ?」
笑いながら。
言われる。
触れる。
背中に。
一瞬じゃない。
押し当てられる。
「っ、あああっ……!!」
声が出る。
抑えられない。
体が反射で動く。
でも、押さえられる。
「ほら出た」
すぐに反応。
笑いが広がる。
抑えきれない。
「やっぱこれだな」
「分かりやす」
軽い会話。
完全に“成功”として共有される。
背中。
触れた場所が、熱を持つ。
じわっと広がる。
遅れて、痛みが強くなる。
皮膚の感覚が変わる。
一点だけ、はっきり残る。
「もう一回いく?」
誰かが言う。
当然みたいに。
「いいね」
「場所変えよ」
笑い。
自然に続く。
逃げようとする。
体が動く。
でも、
「どこ行くの?」
すぐ掴まれる。
引き戻される。
「ちゃんと最後までやれよ」
低く。
でも、楽しそうに。
また、近づく。
今度は少し横。
さっきと違う場所。
「ほら」
軽い声。
触れる。
また。
「っ、あ……ぁああっ……!!」
声が出る。
止まらない。
「いいね」
「さっきより出てる」
評価される。
笑い。
周り。
誰も止めない。
見てるやつも、見ないふりのやつも、同じ空気の中にいる。
授業は続いている。
前では普通に。
後ろでは、それが“普通”になっている。
「なあ」
最後に誰かが言う。
「やっぱ反応ある方がいいな」
軽く。
全員が、なんとなく頷く。
決まる。
これが続くことが。
言葉にしなくても。
空気で。
コメント
1件
感想、拝見しました……。これは、読んでいて息が苦しくなりました。技術室のあの独特な匂いや、周りの“普通”の空気が続く中で、ひとりだけが囲まれている光景が、あまりにリアルで。はんだごてが背中に触れる瞬間の描写は、声が出せないもどかしさと痛みが一緒に伝わってきて、しばらくページを閉じられませんでした。逃げ場のない“空気”の描き方、とても巧みだったと思います。ruruhaさんの筆力、改めて感じました。続きも大切に読ませていただきます。
くつしたのあな
317