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くつしたのあな
317
技術の授業。
はんだごての匂い。
焦げたような、甘いような、独特の匂いが教室に残っている。
各自、作業。
先生は前。
背中を向けている。
後ろ。
小さく笑い。
「てかさ」
軽い声。
「こいつ最近、全然声出さなくね?」
ノートに視線を落としたままでも、分かる。
自分のこと。
「分かる」
「前はもうちょい出てたよな」
笑いが混じる。
「この前さ」
別の声。
「あれで出てたじゃん」
間。
「半田ごてのとき」
すぐに繋がる。
笑い。
「あー、出てたわ」
「普通に」
一瞬、空気がまとまる。
軽く。
でも、逃げ場がない形で。
「じゃあさ」
誰かが言う。
「もう一回やる?」
提案。
でも、
否定は出ない。
「いいね」
「どこまでで出るか見よ」
遊びになる。
完全に。
前を見る。
黒板。
先生の声。
普通に続いている。
止まらない。
「なあ」
耳元。
「反応してみろよ」
軽い。
でも、逃げられない。
最初は、軽い。
肩を小突かれる。
反応しない。
「え、マジで出ねえじゃん」
笑い。
次。
腹に一発。
強い。
息が抜ける。
でも、声は出ない。
「おい」
少しトーンが上がる。
「今のでも出ねえの?」
驚き混じり。
でも、楽しんでる。
もう一発。
横から。
体が揺れる。
でも、声は出ない。
「やば」
「逆にすごくね?」
笑い。
「じゃあこれ」
誰かが言う。
手元の半田ごて。
軽く持ち上げる。
「これなら出るだろ」
当然みたいに。
腕を掴まれる。
強く。
逃げられない。
一瞬、触れられる。
軽く。
でも、熱はある。
体が反射で動く。
でも、声は出ない。
「え、出ねえの?」
本気で驚く。
笑いが強くなる。
「じゃあ長くね?」
提案。
すぐ通る。
押し当てられる。
今度は、離れない。
熱が乗る。
じわっと。
広がる。
体が強く反応する。
でも、声が出ない。
喉が閉まる。
出せない。
「は?マジ?」
笑いながら。
でも、興奮してる。
「やばいってこれ」
「どこまでいけるかやろ」
完全にゲームになる。
「押さえとけ」
すぐに指示。
腕を固定される。
逃げられない。
「次、場所変えるわ」
軽く言われる。
背中を押される。
机に。
前屈み。
服を掴まれる。
上げられる。
背中に空気。
冷たい。
「ここな」
指で示される。
見えない。
でも分かる。
「さすがに出るだろ」
笑い。
期待してる。
触れる。
背中に。
押し当てられる。
痛みが走る。
強い。
でも、声が出ない。
喉が詰まる。
息だけが乱れる。
「……出ねえ」
一瞬、静かになる。
そのあと、
「え、逆に何?」
笑いが爆発する。
「すげえなこいつ」
「バグってんじゃん」
完全に面白がる。
「じゃあさ」
誰かが言う。
少し間。
「出るまでやる?」
軽い。
でも、決定。
「いいね」
「どこで折れるか見よ」
全員が乗る。
押し当てられる。
また。
場所を変えて。
時間を伸ばして。
わざと。
体が揺れる。
でも、声は出ない。
喉の奥で、何かが詰まる。
出そうで、出ない。
でも、それが一番面白がられる。
「惜しい」
「今出そうだったじゃん」
笑い。
評価される。
さらに強く。
さらに長く。
逃げ場がなくなる。
「なあ」
最後に誰かが言う。
息が少し荒い。
でも、笑ってる。
「これ、どこまでいけると思う?」
問い。
誰にでもなく。
でも、全員が共有する。
止めるやつはいない。
誰も。
授業は続いている。
前では普通に。
後ろでは、それが“普通”として回っている。
声を出させるために始まって、声が出ないことで、さらに続く。
終わる理由が、消えている。
コメント
1件
うわ……これ、読んでて息が詰まるようなエピソードだったわ。最初は軽いノリの「声出せ」から始まって、どんどんエスカレートしていく感じが生々しすぎる。特に、声が出ないことで逆にゲーム化して、誰も止めないまま「どこまでいけるか」になってく流れが本当に怖かった。先生が前で授業してるのに後ろでは別の世界が回ってるあの空気感……もう胸糞悪いってレベルじゃなくて、静かに人の尊厳が削られていく感じがひたすらリアルで辛かったわ。