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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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軽快に走る車の中で、詩帆は涼平に聞いた。


「今日はどこに行くの?」

「明日詩帆は早番で朝早いんだよね? だから稲村ケ崎辺りまでにしておこうか?」

「稲村ケ崎って私まだ行ったことないの。夜も入れるの?」

「あそこは24時間入れるよ」


涼平は穏やかに答えるとハンドルを握り続けた。


詩帆は右手に広がる暗い夜の海を眺めた。

その時、ふいにハンドルを握る涼平の逞しい腕が目に入ってきた。

その力強い両腕に、なぜか詩帆は安心感を覚える。


夜の海辺のドライブは、身も心も開放的にしてしまう魔法の力があるようだ。

優しく鼻を突く潮の香りにも同じ効果があるのかもしれない…詩帆はそんな事をぼんやりと考えていた。


車は渋滞もなくスムーズに進んだ。

江ノ島を過ぎ七里ガ浜を過ぎると、間もなく稲村ケ崎へ到着した。

涼平は国道沿いの駐車場に車を停めた。

近くには温泉施設があり、駐車場の辺りは明るく人の出入りが多かった。


二人は車を降りると、横断歩道を渡って公園へ入って行った。

しばらく進むと海が見渡せる場所に出る。

そこからは、暗い夜の海と向こう岸に見える街明かりが見渡せた。


涼平が展望台まで行ってみようと言ったので、二人は緩やかな階段を上って行った。

涼平が詩帆に手を差し出したので詩帆はその手を握って歩く。

二人の足元を、満月の月明かりが程よく照らしてくれていた。


階段を上り切ると展望台広場があり、広場の中心には東屋があった。

海が見渡せる先端まで行くと、その先には江ノ島がうっすらと見える。

右手には国道134号線を走る車のヘッドライトが、線状の光跡を残して煌びやかに輝いていた。


「潮の香りが最高」


詩帆はそう呟いて大きく深呼吸した。


「夜は暗くて富士山は見えないね。本当だったら江ノ島の右手に見えるはずなんだけれどなぁ」

「うん。でも暗い夜の海もなんか神秘的で素敵」


詩帆が嬉しそうなので思わず涼平も笑顔になる。


展望台には他に二組のカップルがいた。皆思い思いに稲村ケ崎からの夜景を楽しんでいる。


「今日は誘ってくれてありがとう。夏樹さんにフリースクールの事を聞いてもらいたかったので話が出来て嬉しかったです」

「それは良かった。でもさ、そろそろ『夏樹さん』はやめないか?」


その言葉に詩帆はきょとんとして涼平を見上げる。


「え? だったらなんて呼べばいいの?」


詩帆が戸惑っていると、涼平は言った。


「うん。あまりよそよそしくないやつがいいな」

「えーっ?」


詩帆はさらに困惑した様子だった。


「夏樹さんはなんて呼んで欲しいですか?」

「うーん、呼び捨てかなあ」


(そんなのいきなり無理…)


詩帆は心の中で呟く。そんな詩帆の気持ちを察した涼平はわざと言った。


「呼んでみて」

「無理ですっ!」

「いいから言ってごらん」


詩帆は顔を真っ赤にしながらチャレンジする。


「りょ、りょうへい……さん」


そのあまりにも消え入りそうな声に、涼平は笑いながら言った。


「『さん』はいらないよ」

「りょ、りょうへい」

「はい、もう一度」

「りょうへい」

「はい、もう一回」

「涼平!」

「うん、それでよし! 徐々に慣れていくさ」


涼平は詩帆の頭をクシャクシャッと撫でてから爽やかな詠美を浮かべた。


それから二人はベンチへ腰を下ろした。

ベンチからも夜景が見えたので、しばらくその夜景を楽しむ。


それから涼平が言った。


「詩帆、下田に行かないか? 詩帆が好きなセルリアンブルーの海を見に下田に行かないか?」」


突然の涼平の申し出に詩帆は驚く。


「え? でも下田って結構遠いでしょう?」

「日帰りでも頑張れば行けるけれど、それだと詩帆が絵を描く時間が取れないんだ。だから一泊で。あ、でも心配しないで。一泊って言っても外でキャンプなんかどうかなーって。それならお互いに寝袋で寝るし詩帆が心配するような事は何もないから」


涼平は安心させるように言った。そして更に続ける。


「俺は詩帆が嫌がる事はしないって約束したからね」


涼平はそこまで言い終えると詩帆をチラッと見る。

すると詩帆は少し考え込んでいる様子だった。


その時の詩帆はエメラルドグリーンの海を想像して胸が高鳴っていた。海を見るだけではない。涼平は絵を描く時間もくれると言った。おまけに詩帆を心配させないようにキャンプ形式で行こうと言ってくれている。それなら詩帆にもハードルはかなり低いように感じられた。

そしてこの魅力的な誘いにどう答えようかと詩帆は考える。


実は詩帆はキャンプにも興味があった。

兄がまだ生きていた頃は、家族で日帰りキャンプによく行った。しかし泊まりがけでの本格的なキャンプは詩帆はまだ未経験だった。

今回はその本格的なキャンプも体験出来るかもしれない。そう思うとさらに胸が高鳴る。


詩帆はしばらく考えた末、涼平にこう聞いた。


「キャンプの道具って、何か用意しないとですか?」

「いや、俺が全部用意するから大丈夫だよ。昔はよくサーフィン仲間とキャンプに行ったんだ。だから道具は揃ってる」


その言葉に詩帆はホッとする。道具を揃えないといけないのかと思っていたからだ。


「ただ夜は少し冷え込むから厚手の衣類は持って来た方がいいかな。あと、もし海で絵を描くなら絵の道具もね。まあ車だから荷物はいくらでも積めるけれど」

「海で絵が描けるなんて最高です! 是非連れて行って下さい!」


詩帆は涼平の誘いを了承した。

そしてニッコリ微笑んで涼平の顔を見上げた時、涼平がその唇を塞いだ。


詩帆は涼平の胸に手を当てて軽く押しながら、


「人に見られます……」


と蚊の鳴くような声で言う。

しかし涼平は、


「見られてもいいさ」


そう言って詩帆を両腕で強く抱き締めてから再び唇を重ねた。


二人の真上には、秋の夜空に浮かぶ満月が煌々と輝いていた。

セルリアンブルーの夜明け

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コメント

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ユーザー

お互いの名前呼びに キス、そしてキャンプへのお誘い....💏🌳⛺️🚙🌊 恋愛に全く慣れていなくて臆病になっちゃう詩帆ちゃんだけれど、涼平さんも急かしたりせず とても優しくて素敵だね...✨ 二人が少しずつ ゆっくり愛を深めていけますように🙏💖✨

ユーザー

夜の海での「涼平」呼びと「見られても構わない」キス💏 でも詩帆ちゃんもかなり涼平さんを男性として意識してるよね❤️ 逞しい腕💪とか厚い胸板とか💕💕 下田へのキャンプ🏕️で絵を描くのもキャンプも楽しみ満載でワクワクだろうけど、この機会にしっかり恋人としての時間を作って愛を深めちゃおう💏💕🫶

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