テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
99
comi
1,258
81
「また汗かいちゃったのでもう一度温泉に入って来ます」「オレもー」
先程まで全力で卓球対決していた天国美と小守は、ぜぇぜぇ息を吐きながら汗だくの温泉へと向かう。
「ただの卓球に本気出しすぎでしょ……」
私は呆れながらも、楓子さんと部屋で天国美達を待つことにした。
「はい、これ麦茶」
「ありがとうございます」
私が楓子さんから渡された湯呑みを受け取ると、楓子さんが私の隣に座った。
風呂上がりの楓子さんのいい匂いがする。
「あの子達は本当に元気だね」
楓子さんが私を横目で見る。
「元気すぎて困るぐらいです」
「小守は君達といるのが楽しいんだろうね。あの子には私の仕事の手伝いばかりで、友達なんて作る暇なんかなかったから」
「それで言ったら天国美もそうかもしれません。あの子なんて、まだまだ生後1ヶ月みたいなもんですから」
「ふふ、そうだね」
楓子さんはくすりと笑った。
遠くで夏虫の声が聞こえる。
「……楓子さん」
「何だい?」
「楓子さんは本当に、私と付き合ってよかったんですか?だって、楓子さんは今でも天国美のことが好きなんじゃないですか」
楓子さんが困ったように目を伏せる。
「……そうだね。私は今でも天国美が好きだよ。天国美は私の思い出を守ってくれた人で、はじめて本当の私を受け入れてくれた人だから」
楓子さんの湯呑みを持つ手が震える。
「それでも、私は地獄子ちゃんと付き合ったことに後悔はしてない。私は地獄子ちゃんのことも好きだし、君達姉妹を助けたいと心から思っている」
「楓子さん……」
「手、繋いでくれるかい?」
そう言って楓子さんが白い手ををこちらに差し出してくる。
「……はい」
私は楓子さんの手をおそるおそる握った。
楓子さんの手は冷たくて、少し震えていた。
楓子さんの覚悟を、天国美の想いを、無駄にしたくない。
私は楓子さんの手を、少しだけ強く握り返した。
それから私達は天国美達が帰ってくるまで、
静かに手を繋ぎながら夏虫の声を聞いていた。
◆◇◆
(天国美視点)
旅館の布団で、おねぇちゃんを抱き枕にして眠りながら、私は昏々と眠りについた。
気がつくと私は川の畔にいた。
当たりは真っ暗。
蛍達が妖しげに光っている。
「夢……ですかね」
私は首を傾げる。
「おーい……おーいってばぁ」
甘く高音ながら、ツンとした気の強さを感じさせる声が頭に響く。
「誰ですか」
私は思わず返事をした。
すると、真っ白な髪の毛のおねぇちゃんそっくりの顔の白装束の少女がいた。
「あんたが私を呼んだの?何のつもりか知らないけれど、人を呪うなんてやめた方がいいわよ」
呪いの魔女の私が言うのもなんだけどね。
と、白装束の少女は肩を竦める。
彼女の言葉に私は目を見開いた。
「えっと……もしかして堂々巡舎蘭さん……ですか?」
「そうだけど?」
こともなげに舎蘭さんは言った。
「あのー……すいません。私あなたのこと呼んでないんですけどぉ…….」
「は?意味分かんない。あんた私の血を体内に入れたんでしょ?」
舎蘭さんが怪訝な顔をする。
「いやー刑部っちとかいう子に無理矢理血を注射されちゃいまして…..」
刑部っちという単語を耳にした途端、舎蘭さんの瞼がぴくぴくと動いた。そして舎蘭さんの真っ白な顔がみるみるうちに真っ赤になった。
「あ•の•糞ダヌキ余計なことばっかしやがってぇ!!」
舎蘭さんが河原の石を思いっきり蹴り飛ばす。黒い川がぽちゃんと音を立て、蛍達が散り散りに飛んだ。
「ごめんねーウチの使い魔が迷惑かけて!!うちのアホ狸達はあとでしっかり呪っとくから!!」
そう言って舎蘭さんが両手を合わせて私に謝る。
「はぁ、どうも」
私はゆっくりと頷く。
この人が県を三つ滅ぼした呪いの魔女?
何かの間違いじゃないのか?
「しかし困ったわねぇ。私としても早く成仏したいのだけれど私の血があなたの身体にすっかり馴染んじゃってるわ……」
はー、と舎蘭さんが座り込む。
「悪いんだけど、しばらくあなたの心の中に居候させてもらうわよ」
「分かりました!これからよろしくお願いします!!」
私は営業スマイルでそう答えた。
癖になってんだ。困った時に営業スマイルするの。
「あなためちゃくちゃ良い子ね!!名前なんていうの!?」
「宍戸天国美です!!天国に美しいって書いてへぶみといいます!!」
「へぇー素敵な名前じゃない!!私は堂々巡舎蘭よ!!呪いたいやつがいたらいつでも言ってね地味かつ陰湿な呪いを重ねがけで送ってやるから!!」
「遠慮しときます!!」
こうして私の夢の中には、時々舎蘭さんが現れるようになったのだった。
(タイムリミットまであと27日。)
コメント
1件
うわっ、今回のエピソードめっちゃ良かった…! 地獄子ちゃんと楓子さんの手を繋ぐシーン、静かで温かくて泣きそうになったわ。 あの夏虫の音の中で交わした「覚悟」の感じ、めっちゃ刺さる。 んで、後半の天国美の夢パートでまさかの舎蘭さん登場!!「あ•の•糞ダヌキ」って叫びながら石蹴り飛ばす呪いの魔女、ギャップありすぎて笑ったw でも「しばらく居候させてもらうわよ」からの「よろしくお願いします!!」の流れ、天国美の営業スマイル癖も含めてキャラ立ってて好き。 タイムリミット27日ってのも気になるし、楓子さんと天国美の過去とかこれからどうなっていくのか…続きが待ち遠しい🔥