帰り道。
ふと遠回りして家へ帰ることにした。
💙「たまには、こういうのもいいよな…」
学園の敷地内にいるだけで息が詰まりそうになる 。
気晴らしに立ち寄ったのは、駅前にあるゲーセン。子どものころ、よく来ていた懐かしい場所。
ふと目についたのは、クレーンゲームの中の小さいぬいぐるみ。
💙「うわ、可愛い……」
いや、別に欲しいとかじゃないし?でも、ちょっと1回だけ…!
100円を投入して、慎重に操作し始める。
──が、まったく取れない。
💙「うそだろ…あとちょっとだったじゃん」
手慣れない操作に苦戦しながら、気づけば何度もトライしていた。
そのとき。
??「それ、ちょっとコツがいるんだよな」
後ろから聞き覚えのある声がした。
💙「えっ」
振り返ると、そこには制服の上にパーカーを羽織った深澤辰哉がいた。
💙「ふ、深澤さん…っ」
思わず声が裏返る。会いたくなかった。こんなとこであの、深澤辰哉に遭遇するなんて。
💙 (こんなとこいたら庶民って思われるんじゃ…でも深澤辰哉も……)
─深澤辰哉─
ゲーム業界最大大手の御曹司。
学園内でも顔が広く、誰にでも軽く声をかける陽キャ。女子からの人気も高く、本人もそれを自覚している。
💜「”さん”付け、やめてよー。学園じゃないんだし、ここじゃ俺もただのゲーマー」
にやっと笑って、隣に立つ。
💜「何回やった?1000円くらいは溶かしてるでしょ」
💙「う…まぁ、それくらい」
💜「じゃあ、見てて」
そう言って、深澤は軽く指を鳴らしながら100円を投入。クレーンを操作する手つきは無駄がなく、狙ったぬいぐるみをわずか数秒でキャッチした。
💙「うそ…」
💜「ほい、どうぞ」
💙「あ、えっ、いや、取ったの俺じゃないから…」
ぐいっと取ったぬいぐるみを俺に押しつけて来るので、ありがとうと呟きながら受け取る。
💜「俺、こういうの得意なんだ。小さい頃から家にクレーンの試作機とかあってさ。まぁ…うち、そういう家系だからね」
それは知ってる。いや、誰だって知ってる。
深澤の家の会社は、学園が取り上げられるくらいの大企業。
でも、今はどこか楽しそうで、偉ぶった感じは一切しなかった。
💙 (昨日の白雪狩りの時とは大違いだな)
💙「ふーん。あんたって、こういう場所にも来るんだな」
💜「そりゃ来るよ。別に、庶民ぶってるとかじゃないよ?」
💙「えっ」
一瞬、心臓が止まるかと思った。
💜「ただ、こういう場所、落ち着くじゃん。家でも学園でも誰かに見られてるって感じ。たまには息抜きしないと、潰れるわ」
💙 (今の、”庶民ぶってる”って、俺のこと…?いや、気づいてるわけじゃ……)
💜「……ま、俺も学園のルールとか、よくわかんねーし。色々面倒なとこだよな、あそこ」
深澤は笑いながら話すが、俺は笑えなかった。ただ、小さなぬいぐるみをほんの少しだけ力を入れて握るだけ。
💙「…じゃあ、俺帰るね。これありがと」
親しみやすく、話しやすい相手だけど、この深澤辰哉もSnowManの1人だ。
顔は覚えられたかもしれない、注意しないと。
💜「そ?じゃ、またな、庶民くん」
──ドクン。
その言葉に足が止まる。
💙 (……いま、なんて……)
💜「冗談だよ。冗談。初めてゲーセンで同じ学園のやつとあったからさ、珍しいなって思って」
いたずらっぽく笑いながら言う。
💜「そのぬいぐるみ、似合ってるよ」
俺は何も言い返せなかった。
ただ、鼓動の音だけが、やけに大きく響いていた。
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コメント
2件
バレませんように!!ってハラハラしながら見てる🤭楽しい✨✨