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#王子
すっこ
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#主人公最強
杯雪乃
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私は、この七人に殺されました。
だから私は、この七人の人生を先に壊しました。
母の字を、
私は何度も読み返した。
順番が逆だった。
七人が母を傷つけたから、
母が復讐したんじゃない。
母が先に、
七人の人生を壊した。
その結果、
七人は母を殺す側に回った。
「澪」
父が後ろに立っていた。
「それを見つけたのか」
「知ってた?」
「……文章までは知らなかった」
私は振り返る。
「でも、母に人生を壊された七人がいることは知ってた」
父は否定しなかった。
「父さんも、その一人?」
「ああ」
「何を壊されたの」
父は少し笑った。
「家族だ」
胸が痛んだ。
「母が?」
「千佳は、俺から家族を選ぶ権利を奪った」
「どういう意味」
「澪を娘だと信じて育てさせた」
父が言う。
「ひかりのことも隠した。奈緒との関係も利用した。十二年前には、俺を死亡扱いにしてまで家族関係を動かした」
「死亡情報を入れたのは母なの?」
「分からない」
「じゃあ全部母のせいにできない」
「ああ」
父は頷いた。
「だから俺は、千佳だけを恨んでるわけじゃない」
そこが、
これまで聞いてきた話と違った。
「じゃあ他の人は?」
父は答えなかった。
*
真壁刑事から連絡が来たのは、
早川由紀子が手術室へ入って一時間後だった。
命に別状はない。
そう聞いて、
初めて息ができた気がした。
私は病院へ向かった。
手術は成功。
由紀子は眠っている。
廊下には榊原美佐子がいた。
「どうしてここに?」
「真壁さんから聞いた」
榊原は病室の扉を見る。
「由紀子まで……」
「母に人生を壊された七人って、誰ですか」
私はいきなり訊いた。
榊原の顔が強張る。
母の紙を見せる。
裏面。
読んだ瞬間、
彼女は目を閉じた。
「やっぱり書いてたのね」
「知ってた?」
「千佳は最後に全部残すって言ってた」
「七人を教えて」
「澪ちゃん」
「もう隠さないで」
私は言った。
「由紀子さんは私をかばって刺された」
榊原の顔が歪む。
「次は誰か分からない」
「……」
「母が何をしたのか知らないと、誰も守れない」
長い沈黙。
榊原はベンチに座った。
「最初は高瀬さん」
「何をされたの」
「会社を壊された」
「母が?」
「千佳が不正を告発した」
「それは悪いことじゃないでしょう」
「不正の中には、高瀬さんがやってないことまで入ってた」
「母が嘘を?」
「証拠を作った」
私は言葉を失った。
「どうして」
「奈緒さんを守るため」
また。
誰かを守るために、
別の誰かを壊す。
「高瀬さんは会社も信用も失った」
榊原が続ける。
「一度は離婚もした」
「だから母を恨んでた」
「ええ」
「榊原さんは?」
彼女は自分の手を見る。
「仕事」
「母に辞めさせられた?」
「違う」
「じゃあ」
「私が奈緒さんの上司として、すべて知っていたことを千佳に公表された」
A-07。
高瀬。
奈緒。
十五年前の事件。
「私は責任を取らされて会社を辞めた」
「でも、それだけで人生を壊されたって」
「夫にも話してなかったことまで、千佳は全部送ったの」
「何を?」
榊原は答えなかった。
「そのせいで離婚した」
二人目。
「父は家族」
私は言う。
榊原が頷く。
三人目。
「由紀子さんは?」
「親友を失った」
「それだけ?」
榊原が首を振る。
「子ども」
心臓が跳ねた。
「由紀子さんにも子どもがいた?」
「いた」
初めて聞く。
「どこに?」
「もういない」
「死んだ?」
榊原は答えなかった。
代わりに、
「千佳が奪った」
と言った。
また、
赤ん坊。
「どういう意味?」
「それは由紀子から聞いて」
「今、手術したばかりです」
「だから私からは言えない」
今度は、
ただ隠しているようには見えなかった。
他人の傷を、
勝手に話さないための沈黙。
「じゃあ佐伯課長」
榊原の顔が曇る。
それは知っている。
「息子さん」
「そう」
母が佐伯を選んだ。
結果、
十七歳の息子が死んだ。
五人目。
「柿崎先生は?」
榊原が病室の奥を見る。
「医者でいられなくなった」
「今も医者でしょう」
「一度辞めてる」
「どうして」
「二十九年前の出産記録を改ざんしたことを、千佳に告発されたから」
私は息を止めた。
「先生が改ざんした?」
「そう聞いてる」
六人目。
高瀬。
榊原。
父。
由紀子。
佐伯。
柿崎。
「あと一人」
榊原は私を見た。
その目で、
分かった。
「私?」
「……」
「七人目は私なの?」
榊原がゆっくり頷いた。
笑うしかなかった。
「母に人生を壊された七人の中に、娘も入ってるんだ」
思い当たることなら、
いくらでもある。
出生届。
偽りの家族。
消された記憶。
二十九年間、
自分が誰かも知らされなかった。
「でも」
私は言った。
「私は母を殺してない」
「直接はね」
「じゃあどうして『この七人に殺された』なの」
榊原は答えなかった。
代わりに、
真壁が廊下の向こうから歩いてきた。
手には、
透明な証拠袋。
「水城さん」
「何ですか」
「早川さんの家の火災現場から、別の資料が見つかりました」
焦げたノートだった。
表紙。
千佳へ
「誰の?」
「七人で書いたもののようです」
「七人?」
真壁が袋越しにページを開く。
最初のページ。
高瀬隆志
その下。
榊原美佐子
水城雅彦
早川由紀子
佐伯孝之
柿崎修一
そして。
水城澪
私の名前。
「私、こんなの書いてません」
「あなたの部分だけ、筆跡が違います」
見る。
確かに。
十四歳くらいの、
幼い字。
嫌な記憶が動いた。
白い紙。
七人。
泣いている母。
私は、
何かを書いた。
「これ……」
ページの中央に、
同じ質問が並んでいる。
水城千佳を許しますか。
高瀬。
許さない。
榊原。
許せない。
雅彦。
答えられない。
由紀子。
二度と会いたくない。
佐伯。
息子を返してくれるなら。
柿崎。
私に許す資格はない。
最後。
水城澪。
十四歳の私の字。
そこには、
短く、
こう書いてあった。
死ねばいいと思う。
私は息をするのを忘れた。
「私が……?」
思い出せない。
でも、
字は私のものだった。
真壁が次のページを見せる。
そこには母の字。
全員一致ではない。
その下。
それでも、私は死ぬことにする。
私は紙を奪いそうになった。
「母は自殺したの?」
真壁は首を振る。
「まだそうとは言えません」
「でも、死ぬって」
「続きがあります」
次の行。
私が死ねば、七人はやっと自由になる。
さらに。
ただし、一人だけ自由にしてはいけない。
私はページを見る。
最後に、
名前が書かれていた。
黒く塗り潰されている。
「誰?」
真壁が答える。
「鑑識で復元します」
その瞬間、
柿崎先生の病室のドアが開いた。
先生が立っていた。
「その必要はありません」
私たちは振り返る。
柿崎は、
黒く塗り潰された名前を見ていた。
「先生、誰なんです」
彼は静かに答えた。
「私です」
「え?」
「千佳さんが最後まで許さなかった一人は」
柿崎修一。
母を診ていた精神科医。
二十九年前の出産にも、
十五年前の死亡通知にも関わった男。
「どうして先生だけ?」
私が訊くと、
柿崎は目を閉じた。
「私が」
声が震えた。
「千佳さんの人生を最初に壊したからです」
コメント
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「順番が逆だった」——この一文で全部の見え方がひっくり返りましたね。七人が母を♡♡♡たのではなく、母が先に七人の人生を壊した。その構造が一気に明らかになった第40話。そして何より、その七人目に澪さん自身が入っている衝撃……「♡♡♡ばいいと思う」と書いた十四歳の自分。それを思い出せない澪さんの苦しさが胸に刺さりました。最後の柿崎先生の告白も重い。母の人生を最初に壊したのが、治療者だったという事実。本当に、一話ごとに世界の見え方が変わっていく物語ですね。