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#命
ruruha
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#学園
要 九十九
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星キラリ

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眠狂四郎
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翌日、美咲は約束の時間より少し早く駅に着いた。
改札の前を行き交う人たちを眺めながら、携帯を握りしめる。
直人とは、これまでも何度も待ち合わせをしてきた。
学校帰りに会ったことも、休日に出かけたこともある。
待っている時間は、いつも少し楽しみだった。
今日は違う。
会いたいと思っているのに、会うのが怖かった。
何を話せばいいのか。
直人は何を考えているのか。
昨日のメッセージには「ちゃんと話したい」と書かれていた。
その言葉の意味を考えるたび、胸の奥が落ち着かなくなる。
「美咲」
声がして顔を上げると、直人が歩いてきた。
「待たせた?」
「ううん。今来たとこ」
「そっか」
直人は美咲の顔を見た。
「体調は?」
「昨日よりはまし」
「食べられてる?」
「少しは」
「無理せんといてな」
「うん」
それだけ話して、二人は駅から少し離れた場所へ歩いた。
人通りの少ない公園のベンチに座る。
しばらく、どちらも話さなかった。
直人が先に口を開いた。
「昨日、大学でいろいろ考えてた」
「うん」
「授業中も、頭に入ってこんかった。家に帰ってからも、ずっと考えてた」
美咲は膝の上で手を組んだ。
「私も」
「そらそうやんな」
直人は一度息を吐いた。
「まず、病院で言われたことを整理したい。週数とか、次の診察とか。俺もちゃんと把握しておきたい」
「妊娠七週くらいって言われた」
「七週か……」
直人はその数字を口の中で繰り返した。
「もう、そんなになるんやな」
「うん」
「次の診察は?」
「予約してある。先生から、次も来るように言われた」
「一緒に行ってもええ?」
美咲は直人を見た。
「大学は?」
「予定を確認する。どうしても無理なら別の日に調整できるか聞いてみる」
「無理せんでええよ」
「無理かどうかは、確認してから考える」
直人の声は落ち着いていた。
けれど、指先は膝の上で何度も動いていた。
美咲はそれに気づいた。
直人も緊張している。
自分と同じように、何をどうすればいいのか分からないのだ。
「……先輩は、どう思ってる?」
「何を?」
「これからのこと」
直人はすぐには答えなかった。
「正直に言うと、まだ分からん」
「うん」
「産んでほしいとか、産まんほうがええとか、今ここで簡単に言えることやないと思ってる」
美咲は俯いた。
「私も分からへん」
「うん」
「産みたいって思うときもある。でも、産んだらどうなるんやろって考えたら、怖くなる」
「そうやと思う」
「高校も卒業できるんかな。進路もどうしたらええんやろ。赤ちゃんが生まれたら、私、ちゃんと育てられるんかな」
言葉にしていくうちに、胸の中に溜まっていたものが少しずつ形になっていく。
「先輩も大学あるやん。これから就職のことも考えるやろうし。私ら、まだ学生やで」
「分かってる」
「お金だってかかるし、住む場所もいるし、赤ちゃんの世話だってある。私、何も知らん」
「俺も知らん」
直人は視線を落とした。
「大学のことも、仕事のことも、これからどうするか考えなあかん。今の生活のままで全部できるとは思ってへん」
「……うん」
「でも、知らんから考えへん、ってわけにはいかんやろ」
その言葉に、美咲は小さく頷いた。
直人はしばらく黙ってから続けた。
「一つだけ、確認したい」
「何?」
「美咲は、今、どうしたいと思ってる?」
美咲は答えようとした。
けれど、声が出なかった。
産みたい。
そう言いたい気持ちはある。
でも、その一言で決めてしまっていいのか分からない。
産みたいと思うことと、実際に育てていくことは違う。
妊娠を続けることも、出産することも、その後の生活も、気持ちだけでは乗り越えられない。
「……まだ、決められへん」
「そっか」
「ごめん」
「謝らんでええよ。俺も決められてへん」
直人は美咲の方を向いた。
「ただ、決めるために必要なことは調べたい。病院で聞くこともあるし、学校のことも確認せなあかん。家族にも話さなあかんと思う」
「うん」
「美咲の身体のことやから、まずは医師の話を聞こう。俺も一緒に聞きたい」
美咲は頷いた。
それでも、心の中には別の不安が残っていた。
「……親に言うのが怖い」
「うん」
「お父さんもお母さんも、たぶん心配する。怒るかもしれへんし、悲しむかもしれへん」
「そうやな」
「何でこんなことになったんって言われたら、何も言い返されへん」
「美咲」
「私が悪いんかな」
直人はすぐに否定しなかった。
「今、誰が悪いかを決めても、これからのことは進まへんと思う」
「でも……」
「俺にも責任がある。美咲だけが背負う話やない」
美咲は唇を噛んだ。
「先輩の親にも言わなあかんよな」
「そうやな。俺も話す」
「大学、辞めたりするん?」
「まだ決めてへん。辞めるか続けるかも含めて、現実的に考えなあかんとは思ってる。でも、今すぐ決めることやない」
「私のせいで、先輩の人生変わってしまう」
「俺の人生でもあるからな」
直人は静かに言った。
「美咲だけのせいにせんといてほしい」
美咲は返事をしなかった。
直人の言うことは分かる。
二人で向き合わなければいけないことも分かっている。
それでも、自分の身体に起きていることだからこそ、直人とは違う重さを感じていた。
身体が変わっていくのも、自分だ。
学校で気分が悪くなるのも、自分だ。
周りに知られたとき、何を言われるのか怖いのも、自分だった。
「先輩」
「ん?」
「もし、産まへんって決めたら?」
直人は美咲を見た。
「それも、一緒に考える」
「産みたいって思ってるのに?」
「気持ちが揺れるのはおかしくないやろ。産みたいと思うことも、怖くなって迷うことも、どっちも本当なんやと思う」
美咲は目を伏せた。
「どっちを選んでも、後悔するんかな」
「後悔するかどうかは、今は分からん」
直人は言葉を選ぶように、少し間を置いた。
「せやから、知らんまま決めたくない。選択肢も、期限も、必要なことも、ちゃんと聞いてから考えたい」
美咲は膝の上の手を握った。
自分が欲しかったのは、きっと簡単な答えではなかった。
大丈夫だと言ってほしいわけでも、全部任せてほしいと言ってほしいわけでもない。
ただ、直人がこの現実から目を逸らさずにいてくれることを確かめたかった。
「……ありがとう」
「まだ何もできてへんけどな」
「それでも」
直人は小さく頷いた。
帰る時間になり、二人は公園を出た。
駅までの道を並んで歩く。
手を繋ぐことはなかった。
以前なら、何も考えずに繋いでいた手だった。
今は、どちらも少しだけ距離を測っているようだった。
改札の前で立ち止まる。
「次の診察の日、連絡して」
「うん」
「一緒に行けるようにする」
「分かった」
直人は美咲の顔を見た。
「今日は帰ったら休んでな」
「先輩もな」
「俺は大丈夫」
「それ、私が言うたら怒るくせに」
直人は少しだけ笑った。
「そうやったな」
その笑顔を見て、美咲もようやく少し笑えた。
けれど、別れたあと、すぐにいつもの気持ちには戻れなかった。
駅のホームで電車を待ちながら、携帯を開く。
咲希からメッセージが届いていた。
『今日、部活来る?』
美咲は画面を見つめた。
『今日は休む』
そう返すと、すぐに返事が来た。
『了解。無理せんときや』
短い言葉だった。
それだけなのに、胸が詰まった。
咲希に話したい。
亮介にも話したい。
何も知らない二人に、今まで通りの自分を見せ続けるのが苦しかった。
でも、話したらどうなるのだろう。
二人は驚くだろう。
心配するかもしれない。
それまでの関係が変わってしまうかもしれない。
美咲は携帯を閉じた。
家に帰ると、母が洗濯物を畳んでいた。
「おかえり。今日は直人くんと会ってたん?」
「うん」
「そうなん。ご飯、もうすぐできるで」
「分かった」
母は美咲の顔を見て、手を止めた。
「……美咲、ほんまに何かあったんちゃう?」
「何で?」
「最近、ずっと元気ないやん。ご飯もあんまり食べへんし、部活も早く帰ってきたって聞いたし」
「誰から聞いたん?」
「この前、お父さんが帰りに見かけたんやって。いつもより早い時間やったから」
美咲は目を逸らした。
両親は気づいている。
何かがおかしいことくらいは。
「学校で困ってることでもあるん?」
「ないよ」
「直人くんと何かあった?」
「何もないって」
母は畳んだ服を脇に置いた。
「お母さんに言いにくいことでもあるん?」
その問いに、美咲は何も答えられなかった。
言いにくいこと。
確かにそうだった。
でも、言いにくいという程度のことではない。
話した瞬間、家族の生活まで変わってしまうかもしれない。
「……今は、何も言えへん」
母は少し驚いたように美咲を見た。
「そっか」
「ごめん」
「謝らんでええよ。ただ、しんどいことがあるなら、一人で抱えんといてな」
美咲は小さく頷いた。
その夜、部屋に戻ってからも、母の言葉が頭から離れなかった。
一人で抱えないで。
それは正しい。
けれど、誰に、どこまで話せばいいのだろう。
直人には話した。
でも、二人で話しただけでは何も決まらなかった。
両親にはまだ話せない。
咲希にも亮介にも言えない。
誰にも言えないまま、時間だけが過ぎていく。
携帯を開くと、直人からメッセージが届いていた。
『今日はありがとう。次の診察のこと、分かったら教えて』
美咲は返事を打つ。
『うん。ありがとう』
送信して、携帯を伏せた。
机の上には、病院でもらった書類が置かれている。
妊娠七週前後。
その文字を見ていると、時間が止まっているわけではないことを思い知らされる。
迷っている間にも、身体の中では変化が続いている。
決めなければならないことがある。
でも、まだ決められない。
美咲は書類を引き出しにしまった。
誰にも言えない。
誰にも知られたくない。
それなのに、本当は誰かに気づいてほしいと思っていた。
自分から話す勇気はない。
けれど、このまま何もなかったように笑い続けるのも、もう難しくなっていた。
翌週には、次の診察がある。
その日までに、何かを決められるのだろうか。
美咲には、まだ分からなかった。
コメント
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うわあ…第27話、めっちゃ胸が締め付けられたよ…😭💔 美咲の「誰にも言えない」って気持ち、すごく伝わってきた。直人と会って話せたのは一歩前進だけど、それでもまだ迷ってて、両親にも友達にも言えなくて…「本当は誰かに気づいてほしい」ってとこ、ぐっときたよ。 直人が「美咲だけのせいにせんといてほしい」って言ったの、すごく大事なシーンだと思った。二人で向き合おうとしてるのが伝わるのに、それでも不安が消えないのがリアルで… 次の診察までに何か決められるのかな。応援してるよ、ruruhaさん!📖✨