テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
4,419
27
ruruha
1,134
きゆう
74
📩 相談
高校2年・Yさん
友達が褒められたり、何かで選ばれたりすると、素直に喜べません。
友達が悪いことをしたわけではありません。
むしろ、本当に頑張っていたのも知っています。
だから「よかったね」と言います。
でも、心の中では、
「いいな」
「私だって頑張ってるのに」
「なんであの子なんだろう」
と思ってしまいます。
そのあと、そんなことを思った自分が嫌になります。
友達を祝いたいのに、心から祝えない。
だから最近は、友達が何かで褒められると、少し距離を置きたくなります。
こんなことを思うくらいなら、最初から仲良くしない方がいいのでしょうか。
遥「……友達に『よかったね』って言うとき、嘘をついてる感じがする?」
Y「はい」
遥「でも、友達が頑張ってたこと自体は分かってる」
Y「それは分かっています」
遥「じゃあ、『よかったね』も全部嘘ってわけじゃないんじゃないかな」
Y「でも、その裏で『羨ましい』って思ってます」
蓮司「別にいいだろ」
Y「……え?」
蓮司「友達の成功と、おまえの嫉妬って、同時に存在できる」
Y「でも、普通は友達なら喜ぶものじゃないですか?」
蓮司「誰が決めた?」
Y「……」
蓮司「友達が一位になった。嬉しい。羨ましい。悔しい。自分も頑張ろうと思う。全部同時にあってもおかしくない」
Y「そんなに混ざるものですか?」
蓮司「むしろ、人間の感情なんてそんな綺麗に一個ずつ出てこないだろ」
日下部「ただ、問題は感情そのものではなく、その感情をどう扱うかだ」
Y「どういうことですか?」
日下部「『羨ましい』と思っただけなら、それで誰かを傷つけたわけではない」
Y「……」
日下部「そこから友達の失敗を願ったり、嫌味を言ったり、邪魔したりすれば別の話になる」
Y「はい」
日下部「でも、おまえは今の話を聞く限り、そこまでしていない」
Y「……してないです」
日下部「なら、まず自分の中に出てきた感情と、実際にしたことを分けろ」
Y「……」
遥「俺も、それ大事だと思う」
Y「遥くんも、羨ましいって思うことありますか?」
遥「ある」
Y「意外です」
遥「なんで?」
Y「なんとなく、人の成功を羨ましがるより、自分のことを嫌いになりそうだから」
遥「……それはあるかも」
Y「やっぱり」
遥「でも、誰かができたことを見て、『俺にはできない』って思うこともあるし、『いいな』って思うこともある」
Y「それって嫌になりませんか?」
遥「なる」
Y「じゃあ、どうしてるんですか?」
遥「……どうにもできないときもある」
Y「……」
遥「ただ、その気持ちが出たからって、相手を嫌いになったことにはしないようにしてる」
Y「でも、私はそこまでできません」
蓮司「おまえ、たぶん嫉妬よりその後が問題なんだよ」
Y「その後?」
蓮司「『こんなこと思う自分は最低だ』って始まる」
Y「……はい」
蓮司「友達が褒められる」
Y「はい」
蓮司「羨ましい」
Y「はい」
蓮司「ここまでは普通」
Y「……」
蓮司「なのに、その次に『友達を祝えない私は性格が悪い』」
Y「……」
蓮司「さらに『こんな人間なら友達を作る資格がない』まで行く」
Y「……そこまで考えます」
蓮司「だったら、友達の成功より、おまえ自身への判定の方が重い」
Y「……」
日下部「嫉妬したことより、嫉妬した自分を裁いている時間の方が長いんじゃないか」
Y「そうかもしれません」
遥「それだと、友達が褒められるたびに二回傷つくことになる」
Y「二回?」
遥「一回目は、『いいな』って思って苦しくなる。
二回目は、『そんなこと思った自分は駄目だ』ってなる」
Y「……」
遥「友達は何も悪くないのに、自分だけどんどん苦しくなる」
Y「はい」
蓮司「しかも、その苦しさを『友達のことを本当に大事に思ってないから』って解釈する」
Y「……」
蓮司「だから距離を置きたくなる」
Y「その通りです」
蓮司「でも、それって友達を嫌いだから離れたいというより、自分の中に出てくる感情を見たくないからじゃないか?」
Y「……たぶん、そうです」
日下部「なら、距離を置けば嫉妬そのものが消えるとは限らない」
Y「……」
日下部「別の人が褒められたら、また同じことが起きる」
Y「……確かに」
日下部「相手を変えても、自分の中の反応が残っていれば同じだ」
Y「じゃあ、どうしたらいいんですか?」
日下部「まず、『羨ましい』をそのまま認める」
Y「それが難しいです」
日下部「難しいなら、無理に好きになる必要はない」
Y「好きになる?」
日下部「自分の嫉妬を好きになる必要はない。ただ、存在していることは認める」
Y「……」
日下部「『今、羨ましいと思っている』。それだけでいい」
蓮司「あと、羨ましいって結構雑な言葉だからな」
Y「雑?」
蓮司「『あの子が羨ましい』って言っても、本当は何が羨ましいのか分からないだろ」
Y「……」
蓮司「褒められたことが羨ましいのか。
先生から評価されたことが羨ましいのか。
努力が結果になったことが羨ましいのか。
周りに認められたことが羨ましいのか」
Y「……」
蓮司「そこを分けたら、案外『友達になりたい』じゃなくて『自分も認められたい』だったりする」
Y「……それは、あると思います」
遥「じゃあ、友達が嫌いなわけじゃないんだ」
Y「……はい」
遥「友達が持ってるものの一部が羨ましいだけかもしれない」
Y「……」
遥「それなら、友達そのものを嫌いになる必要はないんじゃないかな」
Y「でも、友達の成功を見ると苦しいです」
遥「それはそれでいいと思う」
Y「……いい?」
遥「苦しいものは苦しいんだから。
友達が成功したんだから、自分も心から喜ばなきゃいけないって決めたら、余計に苦しくなる」
Y「……」
遥「『よかったね』って言いながら、心の中で『いいな』って思っててもいいんじゃない?」
Y「そんな自分で友達を続けていいんですか?」
蓮司「友達って、相手の成功を100%の純粋な気持ちで祝える人間同士じゃないと成立しないのか?」
Y「……違うと思います」
蓮司「だろ」
Y「でも、羨ましいと思っている自分を知られたら嫌われそうです」
日下部「わざわざ言う必要もない」
Y「え?」
日下部「自分の中に浮かんだ感情を、全部相手に報告する必要はない」
Y「……」
日下部「『羨ましいと思った』ことと、『友達に伝える』ことは別だ」
Y「そうなんだ」
日下部「自分の中で処理する感情もある」
Y「……」
蓮司「むしろ、何でも正直に言えばいいってわけじゃない」
Y「はい」
蓮司「『おめでとう。でも正直ちょっとムカつく』とか毎回言われたら、普通に嫌だろ」
Y「……それは嫌です」
遥「だから、思ったこと全部を言わなくてもいい」
Y「……」
遥「ただ、自分の中で思ったことまで禁止しなくていい」
Y「……」
Yはしばらく黙っていた。
Y「友達が褒められたとき、今までは『喜ばなきゃ』って思ってました」
蓮司「うん」
Y「でも、これからは『今、羨ましいんだな』って一回思ってみます」
日下部「それでいい」
Y「そのあと、本当に嬉しかったら喜ぶ」
遥「うん」
Y「嬉しくない部分があっても、それだけで友達を嫌いになったことにはしない」
蓮司「それで十分だろ」
Y「……なんか、ちょっとだけ楽です」
遥「よかった」
Y「ありがとうございます」
Yが出ていったあと、蓮司が椅子の背にもたれた。
蓮司「嫉妬って、結構面倒だな」
遥「……うん」
日下部「ただ、無くす必要もない」
遥「無くさなくていい?」
日下部「競争心になることもある。自分が何を欲しいのか分かることもある」
蓮司「まあ、俺は嫉妬してる自分を隠す方が面倒だけど」
遥「蓮司は隠さなそう」
蓮司「隠す必要があるときは隠す」
日下部「そこは分かってるんだな」
蓮司「当たり前だろ」
遥「……」
遥は少し考えてから、相談用紙の束を整えた。
遥「誰かのことを羨ましいと思うのって、その人を嫌いって意味じゃないんだな」
日下部「そういうことだ」
蓮司「むしろ、自分が何を欲しがってるか分かるきっかけになる」
遥「……俺も覚えとこ」
🗝 三人からのことば
遥
誰かを羨ましいと思ったからって、その人を嫌いになったわけじゃない。
「いいな」と思う気持ちがあっても、その人のことを大切に思う気持ちまで嘘になるわけじゃない。
蓮司
嫉妬したことより、「そんなことを思う自分は最低だ」と自分を裁き続ける方が苦しくなる。
羨ましいなら、まず何が羨ましいのか見ればいい。
日下部
浮かんだ感情と、実際に相手へ何をするかは別だ。
嫉妬を感じない人間になる必要はない。感情があるまま、どう行動するかを選べばいい。
コメント
1件
「友達の成功と自分の嫉妬が同時に存在していい」って蓮司くんの言葉、すごく沁みました。Yさんの「『よかったね』って言いながら心の中で『いいな』って思ってもいい」という遥くんの返しも、優しくて。嫉妬した自分をさらに裁いて二重に傷つく構造、すごくわかります。自分を否定しなくていいんだと教えてくれる、あたたかい回でした。ruruhaさんの繊細な心理描写、大好きです🌷