国道を運転しながら拓が言った。
「俺さ、高校の時真子と付き合っていて肝心な事を言ってなかったんだ。で、それをずっと後悔していたわけ」
「肝心な事?」
「そう。カッコつけて好きだとか愛してるとかは言ってたけど、一番肝心な事を言ってなかった事に後で気づいたんだ」
「それってどんな事?」
そこで拓はウィンカーを出して国道を左折した。
「ちょっとあの先に高台があるな。行ってみよう」
車は坂道を上り始める。
気付くと空はすっかり暗くなっていた。そして夜空には星が輝き始めていた。
「今日は星が結構出てるね」
「うん。もしかしたら流れ星も見えるかもしれないな」
「流れ星?」
「うん。なんとか流星群?」
「ペルセウスにはまだ早いよ」
「じゃあもう一つの何とかだな…」
「フフッ、忘れてるし」
その時車が突き当りの高台に到着した。傍には民家も建物もなかった。
そして二人は外へ出るでもなく、そのままフロントガラスから星空を眺めた。
そこで拓はフーッと息を吐くと言った。
「俺が真子に言っていなかった事は、俺は真子とずっと一緒にいたいって事。この先二人が年を取ってもずーっとずーっと死ぬまでずっと一緒にいたいって事だよ。そしてその気持ちは今でも変わらない」
拓の告白を聞いた真子は、すぐにぽろぽろと涙を流し始めた。
真子の気持ちも同じだった。
真子も拓とずっと一緒にいたい。このままいっときも離れずにずっと一緒に。
そして死ぬまで拓と一緒に生きていきたい……そう思っていた。
もしあの時、高校三年生のあの頃、拓がその気持ちを真子に伝えてくれていたら、自分は黙って姿を消しただろうか?
もしかしたら何も言わずに消えるなんてしなかったかもしれない。
しかしもうそんな事はどうでも良かった。
今大事なのは、拓があの時と同じ思いを今もなお持ち続けてくれているという事だ。
拓の気持ちを知った真子の瞳からは、次から次へと涙が溢れる。
「だから真子、俺と結婚してくれないか? 俺の奥さんになってずっと一生俺の傍にいてくれないかな?」
泣き続ける真子に拓は優しく言った。
真子はすぐにでもうんと言いたかったが、泣いてしまい上手く言えない。
しかしすぐに返事をしなくちゃと思い涙を拭いて顔を上げる。
「私も拓の奥さんになりたい。拓とずっと一緒にいたい。死ぬまで拓と一緒に生きていきたい」
「真子」
「よろしくお願いします」
真子がペコリと頭を下げたので、思わず拓の頬が緩む。
拓は二人の気持ちが同じだった事にほっとしたようだ。
それから拓も言った。
「こちらこそよろしく。ロマンもへったくれもない男ですが、末永くよろしくお願いします」
拓の言葉に真子は泣きながらフフッと笑った。
その時拓が真子の方へ身体を傾け唇を重ねてきた。
真子にはそのキスが誓いのキスのように感じられた。
拓からのキスを受けとめながら、真子はうっすらと目を開けてみる。
するとフロントガラスは満天の星に埋め尽くされていた。
眩し過ぎるほどの星明かりを見て、真子の心が感動で震える。
記念すべきプロポーズの夜の星空はしっかりと真子の胸に刻まれた。
二人は星明かりの下、誰に邪魔される事もなくいつまでも唇を重ね続けた。
その日の夜も、拓は真子の家に泊まった。
二人はアパートへ入るなり、互いの身体を激しく求め合った。
そして真子との濃密な時間を終えた拓は、真子に腕枕をしながら言った
「ここに住むかな?」
「え?」
「真子が迷惑じゃなければだけど」
「うん、いいよ。二ヶ月でしょう?」
「出張は二ヶ月だ」
「いいよ。来ても」
「ありがとう。じゃあそうするよ」
二ヶ月経った後は? 真子はそう聞きそうになったが、なぜかその質問をぐっと抑える。
拓が北海道に移住するか真子が神奈川へ帰るか、二人が一緒にいる為にはその二択しかない。
わかり切っている事を今聞いたところで、今はどうする事も出来ない。
だったら先の事は考えずに、今は目先の事だけを考えればいいのでは? ふとそんな思いが真子の頭を過る。
その時拓はベッドサイドに置いてあったスマホを手に取ると何かを検索し始めた。
「何見てるの?」
「ジュエリーショップの定休日。あ、水曜が休みか…」
「うん、このあたりのお店は水曜定休が多いよ」
「そっか。おまけに閉まるのも早いな」
そこで拓はじっと考える。
「じゃあ今度の日曜日に行くか。それなら時間もたっぷりあるし」
「うん、わかった。楽しみ」
真子は嬉しそうに微笑むと拓にすり寄る。
「どんなデザインがいいか考えとけ」
「うん」
拓はもう一度真子に優しくキスをしてから真子の身体を更に引き寄せた。
そして二人は目を瞑り深い眠りへと入っていった。
コメント
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たらればになるけど、高校生の時にそこに気付いてたら…過去へは戻れないし、拓君がこのタイミングで真子ちゃんに「ずっと死ぬまで一緒にいたい」って言えたのは素晴らしい👍😊❣️ そして真子ちゃんも高校生の頃から心の奥底で気づかぬうちにその言葉を待ってて、今岩見沢の星の下で🌌プロポーズを受けて✨✨ これから2人で同居して愛を深めて❤️でもやっぱり今も大切だけど不安があるならしっかり美桜ちゃんや涼平さんにも相談ね