コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第25話:大和国、核を保有する
配信の幕開け
「こんばんは、“はごろもまごころ”だよ!」
まひろは濃いグレーのトレーナーに膝丈のカーキパンツ。
首元には学校支給のIDホルダーを下げ、いつもの無垢な笑顔でカメラに向かって話していた。
「ねぇミウおねえちゃん……ニュースで“大和国が核を持った”って言ってたけど……ほんとかな?」
隣に座るミウは、ラベンダー色のブラウスに淡い水色のタイトスカート。
髪を横に流し、パール調のイヤリングを揺らしながら、やわらかく微笑んだ。
「え〜♡ でも、それって怖いことじゃないよ? “核”って言っても、病気を治したり、電気を作ったり……
みんなの役に立つ未来の力なんだよ」
コメント欄がざわつく。
「原発に使うなら安心」
「でもほんとに兵器じゃないの?」
「信じたいけど少しこわいな」
画面の隅には「#未来防衛資源法可決」のトレンドが点灯していた。
軍長の声明
翌朝。
国営放送の画面に、深緑の軍服を着た国軍(サムライ)の軍長が姿を現した。
短く整えられた髪、鋭い視線、胸には「未来防衛資源隊」の徽章。
背後にはバックに翡翠色と真ん中に緑丸がかかれている国旗と、“安心の未来を守る”の文字が揺れていた。
「本日、“法律調整会”において『未来防衛資源法』が正式に可決された。
これにより、大和国は“医療・発電・安心防衛”のための原子力研究と保有を、国家の権限として認める。」
会場は静まり返り、軍長の声だけが響く。
「我々サムライが護り、ネット軍(ニンジャ)が監視する。
原子の力を“安心”に変えるのが、この国の使命だ。」
拍手が広がり、スクリーンには「未来資源開発研究所」「協賛原子炉第一号」の文字。
市民の心には「安心の核」という新しい言葉が刻まれた。
Zの視点
夜の研究都市。
緑のフーディを羽織った Z(ゼイド) は、塔の屋上から街を見下ろしていた。
遠くの丘には、巨大な円形ドーム——「核研究施設」。
その外壁には「未来を守る実験区域」と書かれた文字が浮かんでいる。
Zは小型端末を開き、施設のエネルギー出力データを眺めた。
「発電用……ね。表向きはな。」
彼の指が動くたび、画面に無数の監視マークが点滅する。
一般公開されない実験区画、出入りする研究者のデータ、
“未来燃料”という名の未登録物質。
「安心のための核研究? 本当にそれだけか……?」
遠くでサイレンが鳴る。Zは口元を歪めて、静かに笑った。
「まだ“原子”の段階か。……でも、燃えはじめた火は、誰にも消せない。」
市民の受け止め
街のスクリーンでは「核で作る病気のない未来」という広告が繰り返し流れていた。
インタビューで市民たちは笑顔で語る。
「昔は核って怖かったけど、大和国が管理してるなら安心できる」
「企業が一緒に研究してるから心配ないよ」
「医療も発電も、どっちも“未来の希望”でしょ?」
学校でも教師が説明していた。
「核は武器ではありません。未来を守る“未来資源”です。
大和国が管理すれば、それは“平和の種”になるんですよ。」
生徒たちは一斉に頷き、ノートに「核=安心」と書き込んだ。
無垢とふんわり同意
夜の配信。
まひろは膝を抱えて、小さく呟いた。
「ぼく……“核ってほんとに安心なのかな”って思っただけなのに、みんな笑ってた。」
ミウはパール調のイヤリングを指で弄びながら、やさしく微笑む。
「え〜♡ でも、それでいいんだよ。みんなが“安心”って思えば、核は平和の象徴になるんだもん♡」
コメント欄には、同じ言葉が並んでいく。
「その通り」
「ありがとう」
「未来を信じるよ!」
まひろは小さく頷き、口元だけでつぶやいた。
「……ありがとう。」
結末
夜風が吹く屋上。
Zは空を見上げた。
遠くの研究施設のドームが、ゆっくりと光を放っている。
それはまるで、街全体を照らす“安心の灯”のように見えた。
「安心の光か……。でもその中には、誰も知らない影がある。」
彼は端末を閉じ、静かに呟く。
「これが“未来の始まり”ってやつか。」
街のネオンが緑に滲み、Zの横顔だけが、ぼんやりと照らされていた。
無垢な問いとふんわり同意、その裏で大和国は“核研究”を始め、
世界は「安心」という言葉に信じ、ゆっくりと“原子の未来”を歩みはじめていた。