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早坂と別れた後、タクシーでマンションへ戻る。
怪我を負っている私を気遣って、かなえちゃんも一緒に来てくれた。
部屋の惨状を見て、改めて事の悲惨さを思い知る。
雑誌や郵便物が床のあちこちに散乱し、テレビのリモコンも見事に破損していた。
遥
かなえ
遥
遥
雑貨類は元の場所に戻し、破損したものは分別してゴミ袋に入れる。
派手に壊されてるもの自体は少なくて安心した。
血で汚れたラグは、いずれこの部屋に戻ってきたときに処分しようかな。
遥
かなえ
雑談しながら、必要な物だけをバッグに詰め込む。
この逃亡生活はいつまで続くんだろう。
これを期に引っ越すのも有りかもしれない。
でも、そうすると今度は勤務先に青木さんが来るかもしれない……という懸念が生まれて、気分が落ちた。
遥
彼への恐怖が拭いきれない。
気持ちはだいぶ落ち着いたとはいえ、昨日の今日だ。 あの悪夢を過去話にできる日は遠いだろう。
大家さんと話をつけて、再びタクシーへ戻る。
このまま早坂のマンションへ向かう予定。
かなえちゃんには、行き先は友人のマンションだと嘘をついた。
早坂の住んでる場所なんて知らないだろうし、偽ってもバレることはないと思う。
遥
大きなボストンバッグを2つ、タクシーの後部座席に置く。
その隣にかなえちゃんと一緒に乗り込んだ。
遥
そこそこな量になってしまった荷物を見て、かなえちゃんは小さく吹き出す。
かなえ
遥
遥
遥
かなえ
遥
一瞬だけ、早坂の顔が頭に浮かんだけど。
遥
遥
かなえ
遥
かなえ
遥
遥
遥
もちろん普通に恋愛したいし、今度こそ結婚を視野に入れた交際を望んでる。
ここで消極的になったら、あっという間にアラサーだ。本当に後がなくなってしまう。
遥
情けない嘆ぎをボヤく私の隣で、かなえちゃんはポケットからスマホを取り出して弄り始めた。
そして私に目を向ける。
かなえ
遥
かなえ
遥
彼女の指が画面の上を滑る。
そして目的のアプリをタップした。
それが何のアプリなのか、私にはわからない。
SNSの影響をモロに受けたかなえちゃんは、様々なアプリやツールに手を出している。
タイムラインに流れてくる面白動画をスタッフに見せて、和気あいあいと盛り上がっている光景を何度も目にしたことがある。
けれど彼女は今、聴いてもらいたいものと言った。
動画を見せたいわけではなさそうだけど。
遥
かなえ
遥
物騒な言葉に一瞬固まる。
犯罪的な言葉が出てくるとは思わなくて、少し身構えてしまう。
対してかなえちゃんの表情は変わらない。
スマホに視線を落としたまま、控えめに尋ねてきた。
かなえ
遥
かなえ
あまりにも急な問い掛けに動揺した。
困ったように私は眉を下げる。
どうして早坂の話題になるのか、かなえちゃんが何を伝えようとしているのかがわからなくて困惑する。
探るような視線を向ければ、画面を滑らせていた彼女の指が止まった。
かなえ
遥
遥
かなえ
遥
早坂
遥
不意に早坂の声が聞こえた。
けれど、この場に彼はいない。
声の発信元は、彼女が持つスマホからだ。
その後もかなえちゃんの声が続き、2人が仲良く談笑している様子が聞こえてくる。
困惑したままスマホを見つめる私の様子を、かなえちゃんは静かに見守っていた。 まるで私の反応を窺っているかのように。
遥
かなえ
かなえ
かなえ
遥
素朴な疑問だった。
そんなものを録ってどうするつもりなのか。
早坂の弱味でも握るつもりなら理解できるけど、かなえちゃんがそんな事をするとは思えない。
けれど、こっそり録っていたということは、早坂自身も盗聴されていた事を知らないのだろう。
――――盗聴してまで聞いてほしい内容。
それが何なのかを尋ねようとした時、流れてきた会話の内容に、私は言葉を失った。
かなえ
早坂
かなえ
早坂
遥
驚きで声が裏返った。
耳を疑うような会話に目を白黒させる。
それほど衝撃的な告白が、早坂の口からこぼれ落ちたのだから。
遥
絞り出すように発した声は弱々しくて。
心臓がドクドクと嫌な音を奏で始める。
スマホという媒体を通じて、2人の会話は鮮明に、私の耳へと届けてくれる。
意気揚々と早坂に詰め寄るかなえちゃんと、それを真摯に受け止めている早坂の会話は、誰がどう聞いても、恋愛相談をしている男女のそれだ。
そしてその相手が誰かなんて、この会話を聞けば一聴瞭然で。
『出ていってほしくない』
『話したいことがある』
今朝言われたあの言葉と、スマホから流れてきた早坂の告白がリンクする。
遥
かなえ
私の思考を先読みして、彼女は言葉を遮った。
悟ったような口調に私は押し黙る。
相手はまだ、私より7つも下の後輩なのに。
今、この場において主導権を握っているのは、明らかに年下のこの子だ。
――――今更になって気付く。
みんなから『いじられキャラ』として愛されているかなえちゃんは、そのイメージを崩さないように、あえてそのキャラを演じてくれていたのだと。
そして今、そのいじられキャラとしての姿はない。平然と、眉も動かずに私を見つめている。
静かで、でも力強い意志を秘めた瞳。
まるで胸の内を見透かされているようで、息が詰まりそうになる。
かなえ
かなえ
どこか不満めいた口振り。
でも私を責めているような響きはなくて。
かなえ
かなえ
かなえ
遥
かなえ
かなえ
遥
かなえ
かなえ
凛とした声が心に響く。
確固たる意志を見せられて、私は何も言えなくなった。
私と早坂との仲を茶化すわけでもなく、だからって、交際を強要させるわけでもない。
彼と築いてきた親友同然の関係をこのまま保つのか、それとも変えていくのか。
どんな形であれ、早坂の気持ちが報われるのであれば考えてほしい、そう告げるかなえちゃんの想いに胸を打たれた。
遥
かなえちゃんの気持ちと、早坂の気持ち。
2人の想いを知ってしまった私の口から零れたのは、消極的な本音。
――――だって私は不倫してたのに。
不貞行為を働くような最低な人間なのに。
そんな女が、彼氏と別れた直後に今度は別の人と……なんて。 そんなの早坂に失礼だ。 誠実じゃない。
彼にはもっと、相応しい人がいるはずだ。
そう訴えたけど、かなえちゃんは可笑しそうにくすくすと笑った。
かなえ
遥
私がいま抱えているのは不倫問題だ。
首を突っ込めば面倒なことに巻き込まれる、賢い彼女ならそんな事くらい予想できるはず。
現に私に関わったせいで、トラウマになりかねないほど怖い思いもしたはずなのに。
それでもかなえちゃんは必死に、私達に関わろうとする。
かなえ
遥
かなえ
頬を染めながら彼女は笑う。
私がよく知る無邪気な笑顔。
そのあどけない表情が眩しくて、私は膝元に視線を落とした。
遥
社会の仕組みも汚さも、大人の狡い考え方すら知らない。
どれだけ大人びていても、彼女はまだ、たった19歳の女の子なんだ。
だから思う。 圧倒的に経験値を積んでいるはずの私達は、かなえちゃんの言う"普通"の感覚を見失いかけている。
余計な知恵をつけたばかりにずる賢くなって、逃げ方を覚え、年を重ねる度に臆病になる。
子供から学ぶ事が多いと大人はよく口にするけれど、こういうことなのかもしれない。
……かなえちゃんは、やっぱり知るべきじゃなかったんだ。
ずる賢い大人達の、こんなにも穢れた恋愛事情なんて知る必要なかった。
憧れ、なんて言ってもらえるような……人の見本になれるような人間なんかじゃない。
そんな綺麗な大人じゃないんだよ……私は。
コメント
3件

思ったより伏線あってビックリした 尊敬やわ
みぅ🤍🥀です…っ 第15話、読み終えました…っ✨ かなえちゃんの想いがこんなに熱かったなんて、想像以上でした。ずっと“いじられキャラ”を演じてたって気づいた瞬間、ゾクッとした…。あの子、本当はすごく大人で、二人のことをちゃんと見てたんだね。 「報われない恋を何年も抱いてるなんて、そんな悲しい話ありますか」って言葉、胸に刺さりました。早坂さんの静かな想いも、かなえちゃんの応援も、全部ちゃんと遥さんに届いてほしいなって思いました。続きが気になる…!