次の日、涼平は7時頃事務所を出た。
今日は帰りに本屋へ寄る予定だ。
詩帆が働いているカフェの隣にある本屋だ。
涼平は書店へ着くと、自転車を停めてカフェの横を通り過ぎる。
その時チラリと店内の様子をうかがう。
詩帆は店内にはいなかった。
カフェに詩帆がいないとわかると、涼平はそのまま書店へ入り写真集のコーナーへ行く。
涼平は、この間詩帆が食い入るように見つめていた写真集を詩帆の誕生日プレゼントにしようと思っていた。
写真集のコーナーに行くと、先日詩帆が見ていた写真集を手に取る。
本を開くと、そこには世界各国の美しい海の写真がいくつも掲載されていた。
海の青色は本当に様々な色がある。
そのあまりにも美しい写真の数々に涼平もしばらくの間見入ってしまう。
そして涼平はこの前詩帆が見ていたページを探し出そうとした。
セルリアンブルー色の海……そう思いながらページをめくっていくと、その写真は見つかった。
詩帆が見つめていた海の写真は、2ページに渡って掲載されている。
「これだ!」
涼平はすぐにその海がどこかを確認した。
その写真の撮影場所は、ニューカレドニアのウベア島という島らしい。
「ニューカレドニアか……」
涼平は心の中で呟く。
この海を直接詩帆に見せてやりたいが、海外となるとそう簡単にはいかない。
涼平はどうしたものかと、さらにページをぱらぱらとめくる。
その本の巻末には、美しい海が見られる場所の一覧表があった。
海外と国内の美しい海が見られる場所がリストになっている。
涼平はこの近くでセルリアンブルー色の海が見られる場所はないかを探す。
すると静岡県の下田でそれに近い海の色が見られる事がわかった。
下田なら涼平も何度かサーフトリップで行った事がある。
確かにエメラルドグリーン色の海をしていた。
光の加減によればセルリアンブルーにもきっと見えるだろう。
下田の海は遠浅で水質が良く、白砂が多い為エメラルドグリーンに見えるのだと聞いた事がある。
しかし涼平は下田だと日帰りはちょっと厳しいかもしれないと思った。
なぜなら、詩帆を連れて行ったら絵を描く時間もたっぷり与えてやりたい。
そう思うと、一泊で行った方が時間に余裕が持てる。
涼平はうーんと考えたが、とりあえず本を先に購入しようと思いレジへ向かった。
プレゼント用に綺麗にラッピングしてもらった本を受け取ると、涼平は書店を後にした。
その頃詩帆はアパートで夕食の支度をしていた。
いつも朝や昼は適当な物しか食べていないので、夜はなるべくきちんととるようにしている。
と言っても、詩帆は料理があまり得意ではなかった。
ここへ引っ越してくる前は実家暮らしだったので、あまり料理をする機会もなかった。
また料理が苦手なもう一つの理由は、今まで恋人がいなかったせいだろう。
もし恋人がいたら手料理をご馳走したくて頑張っていたかもしれない。
でも詩帆にはそういう機会がなかった。
まあ、これらは全ていい訳なのだが、でも得意でないのは事実だった。
この日もハンバーグ作りに挑戦していた。
ハンバーグを作るのは、今日で二回目だ。
ひき肉をこねる事は楽しかったが、焼いている時にいつも割れて形が崩れてしまう。
以前作った時はハンバーグの中が生焼けだったので、今回は煮込みハンバーグにしてみようと思い
レシピとにらめっこしながら作ってみる。
その努力の甲斐があってか、やがて部屋には美味しそうな香りが漂ってきた。
詩帆はレシピ通りに赤ワインを入れて最後の仕上げをする。
するとさらにレストランのような良い香りが漂ってきた。
煮込みハンバーグとロールパン、それに生野菜のサラダを作ってテーブルへ運ぶと、
詩帆は早速料理を食べ始める。
(ん! おいしい!)
今回のハンバーグは大成功だ。詩帆は嬉しくて思わず微笑む。
俄然やる気の出た詩帆は、次はまた違うレシピに挑戦してみようと思った。
食事の後、後片付けをしてから詩帆は絵を描こうと思った。
画材が置いてある机の前に座ると、C3サイズのキャンバスボードに下絵を描き始める。
今日書こうと持っている絵は辻堂の海の絵だ。
今回は朝の水彩スケッチとは違い、アクリル絵の具を使って朝の海を表現する。
一筆一筆丁寧に集中して描き続けた。
四時間ほど熱中していただろうか?
絵は漸く完成した。
アクリル絵の具の鮮やか過ぎる色彩をわざと抑え気味にし、
全体的に落ち着いた色合いで辻堂の海を表現した。
砂浜に打ち寄せる波、朝日に照らされた海面はキラキラと輝き一筋の光の道を作る。
夏の面影を残した雲、そして空と海の境目はオレンジ色に染まっていた。
そこを起点に空に向かってブルーのグラデーションが始まる。
まさに早朝のマジックアワーを捉えた絵だ。
詩帆は完成した絵を少し遠くから眺めてみる。まずまずの出来だ。
修正する部分がもうないとわかると右下にサインを入れる。
この絵は、金曜日のパーティーで優子への誕生日プレゼントにしようと思っていた。
絵を乾かしている間、詩帆は以前からコレクションしているアンティークの額縁の中から
この絵のサイズに合うものを一つ選ぶ。
絵が完全に乾いたら、その額縁に入れる事にした。
詩帆は完成した絵をもう一度眺めると、ホッと息をついた。
コメント
2件
二人とも それぞれ 素敵なプレゼントを用意して....✨🎁✨ 喜ぶ顔が見られると良いですね....ワクワク🥰💕💕
詩帆ちゃんの欲しかった本を涼平さんがプレゼント📕🎁これは詩帆ちゃん嬉し泣じゃないか🤭❣️ 少しずつお互いの気持ちが歩み寄ってきてて嬉しくてキュンキュン💕