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校庭に冷たい風が吹き抜ける。体操服に着替えた遥は、クラスの輪から遠く離れた場所に立っていた。
皆の視線は、まるで彼を透けて見ているかのようにすり抜け、交わされていく。
「おい、こいつ、また後ろで震えてるぜ」
「近寄るなよ、変な病気うつりそう」
声が集まっては消え、からかう笑いが宙に浮く。
遥の肩は小刻みに震えている。
ボールが彼の元に転がってきた。
拾おうとした瞬間、足元を蹴られ、ボールは遠くへ飛んだ。
「拾えねえのかよ、マジで使えねえ奴」
「お前みたいなの、邪魔なだけだろ」
誰かが、体育用具のロープを遥の首元に軽く引っ掛けた。
「これ、ちゃんと外せよ?な?」
その言葉は命令だ。逃げ場のない拘束。
遥は顔を上げず、ただ黙ってロープをほどいた。
振り返ることもできず、仲間の輪には戻れない。
体育教師の視線が一瞬彼に向けられたが、すぐにそらされた。
「まあ、無理に入れなくていいよ」と言わんばかりの無言の拒絶。
休憩時間、数人の生徒が彼を囲んだ。
「よお、今日はどんな恥ずかしいこと言わされるんだ?」
彼らの言葉は毒で、笑い声と共に遥の胸に突き刺さる。
「お前の汗、臭いんだろ?もっとみんなの前で匂わせてやれよ」
強要された言葉を遥は飲み込み、何も言わずにうつむく。
彼の声は、誰にも届かない。
教室と同じように、彼は「いないもの」とされ、同時に「玩具」とされている。
孤独は透明な鎖となり、彼の動きを縛ったまま、体育の時間は続く。