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夕暮れの屋上は、薄く冷えた風が吹き抜ける。クラスメイトたちは、下の階に戻り、誰もいないはずのこの場所に、いつの間にか数人の影が集まっていた。
遥は壁際に押し込められ、目を伏せたまま立っている。
「ここで話そう」そう言ったのは、いつも笑みを浮かべる女子の一人だった。
「ねえ、遥。なんでそんなに黙ってるの?
声出せないの?それとも出したくないの?」
冷たい声が何度も繰り返される。遥は小さく息を吸い、口を開く。
「……おれ、……もう……声、ないかも」
言葉はかすれ、喉に引っかかって飲み込まれそうになる。
誰も彼の声を受け止めず、むしろ嘲笑が返るだけだった。
「ほら、言ってみなよ。『おれはここにいてもいい』って」
言われた言葉に、遥は震えながらも小さく首を振った。
「……それ、嘘だから……」
静かな風が遥の髪を揺らす。
誰も何も言わず、ただ冷たい視線が彼を見下ろす。
「そんなこと、言うなよ。ここはお前の居場所なんだろ?」
そんな言葉が、屋上の空気をさらに冷たく凍らせた。
遥は俯きながら、囁いた。
「おれ、……消えたいんじゃない……」
「ただ、……ここに、……いたいだけ……」
声は小さく、風に掻き消されてしまいそうだった。
けれど、その言葉は確かに、この場所に残った。