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たとえば、なにかが欠けている人間を見ると、ぞくぞくする。
欠けているまま立っているのが不思議で、
それでも息をしているのが、面白い。
それを指でなぞって、言葉にしてやると──
みんな、泣く。
泣きながら、自分がどこで折れたかをしゃべり出す。
正直、どうでもいい。でも、その顔が好きだ。
割れた器にぬるい水を注いでやるみたいに、
「わかったふり」をして、頷く。
すると、もうこっちを見上げてくる。
まるで犬だ。
でも、犬の方がまだ正直だと思う。
日下部もそうだった。
ずいぶん長く、壊れなかったのに。
最後は、目をそらさなくなった。
すぐ泣くくせに、顔はこっちを見ていた。
いい顔だった。
残しておけばよかったと思う。
あの瞬間だけ、標本にして──
凍らせておけばよかった。