テラーノベル
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誰よりも早く立ち上がったのは、教壇のそばで笑っていた女子だった。遥の机に向かってくる。その様子に、クラスの空気が緩んだ。教師もとっくにいない。
「ねえ、ねえ、今日の“奴隷くん”、ちゃんと反省してる?」
女の子の声は明るかったが、その語尾には悪意が滴っていた。周囲の男子が笑い、背後からイスが蹴り出される音がした。
「お前ってほんと、どこが生きてる価値あんの?」
「家でもゴミでしょ? 学校でもいらないって、やばくない?」
遥は無言だった。声を出した瞬間、何をされるか、身体が覚えている。いや、覚えさせられた。
「今日もやっとく? “身体検査”!」
後ろから男子が叫んだ。それが合図になった。椅子が倒され、机が動く。
女子の一人が遥の鞄を開け、中身をひっくり返す。
「見てこれ、ノートも真面目〜。きもっ」
「きもい、ってレベルじゃない。こいつ、女だったらAV落ちしてるって」
「いや、こいつが女だったら誰も買わねーよ。せいぜいハメ撮り流されて終わり」
笑い声。嗤う声。
遥の首元を誰かが掴み、制服の襟を引き剥がす。ボタンがひとつ飛んだ。
「お、脱がせようぜ、これ」
「やめとけってー、誰も得しないわ」
「じゃあカメラだけにしとこ。後で加工して売ろ」
スマホのシャッター音。フラッシュ。誰も止めない。むしろ、それが儀式だった。
生贄を囲む宴。
女子の一人が耳元で囁いた。
「ねえ、やめてって言えば? 言えないんでしょ? どうせ、“無価値”なんだもんね」
遥は、黙っていた。
立っていることさえ、意識の外へ押し流さないと、崩れてしまいそうだった。
羞恥も、怒りも、恐怖も――もうとっくに、通り過ぎていた。
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