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教室の隅――いや、そこは教室と呼べる空間ではなかった。遥の席だけが、そこだけが、どこか「異質」だった。
「マジでさ、なんで生きてんの? 意味ある?」
「ねえ、今日の“死に様”どれにする? 窓か、トイレか、ほら、電車の時間メモっとく?」
男子が笑いながら、机に赤いペンで「死ね」と書きなぐる。消そうとこすっても、跡が残るように何度も重ね塗りされている。
女子の一人が遥の足を踏んだ。わざと、何気ない顔をして。
「邪魔。くさ。てか、その服、なんか“男”のつもりなんだ?」
べたっと背中に何かが貼られる。「使用済」のシール。それはどこかの生理用品の袋から切り取られたものだった。
「“それ”さぁ、ちゃんとタマあるのかな。中、見てみる?」
「うわ、やだ、触ったらなんか病気うつりそう~」
女子の中には、携帯の画面で遥の後ろ姿を撮り、「映ってたら不幸になる」としてLINEのグループアイコンに設定している者もいた。
男子たちは、体育のときの遥のジャージを勝手に持ち出し、棒で突き、
「ちょ、こいつマジで“使われたあと”みたいな臭いするんだけど」
「ていうかさ、誰が最初に“できる”かって話だよな。罰ゲームで」
と、あくまで冗談めかして話す。周囲も笑う。誰も止めない。教師は見て見ぬふりを決めている。
「呼吸、やめてくれないかな。音が不快」
「黙ってるとこが気持ち悪いんだよ。だから虐待されんだろ、家でも」
黒板に書かれる「今日の奴隷ゲーム」。内容はくだらない――と、言うには残酷すぎる。
「下駄箱の掃除」
「トイレの床を舌で」
「誰の股間に一番近づけるかチャレンジ」
遥は何も言わない。何もできない。その沈黙を「服従」と読み取る空気が、クラスを一つの生き物のように動かしていく。
「生きてる意味、ないでしょ?」
「お前がいると、空気がよどむんだよね」
その言葉に、遥はうつむいたまま、無言で呼吸していた。