テラーノベル
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放課後。
まだ数人、残っている。
完全には静かじゃない。
笑い声も、足音もある。
だから、逃げ場はない。
「来い」
呼ばれる。
立つ。
「早く」
背中を押される。
教室の後ろ。
掃除用具のロッカー。
扉が開く。
「入れ」
「……無理」
一瞬、言う。
その一瞬で、肩を掴まれる。
「入れって」
強く押される。
足がもつれる。
そのまま、押し込まれる。
モップが顔に当たる。
膝がぶつかる。
「待っ——」
最後まで言えない。
扉が閉まる。
ガン、と音。
外からすぐ声。
「静かにしてろよ」
「聞こえるから」
笑い。
中は暗い。
狭い。
姿勢が固定される。
呼吸が浅くなる。
外の音は、普通。
誰かの笑い。
スマホの音。
日常のまま。
その中に、閉じ込められている。
時間が伸びる。
どれくらいか分からない。
ただ、息だけがうるさい。
外で、足音。
近づく。
扉が叩かれる。
ドン。
「生きてる?」
笑い。
返事をしない。
すると、もう一度。
ドン。
「おい」
低い声。
「無視すんなよ」
喉が動く。
「……いる」
小さく返す。
「ならいい」
興味を失ったみたいに離れる。
また、時間が伸びる。
やっと、扉が開く。
光が刺さる。
「出ろ」
外に出る。
足が少し揺れる。
笑い。
「弱」
「それくらいで?」
肩を軽く叩かれる。
「ほら、次」
教室の中央。
机の上を見る。
空。
何もない。
カバンも、靴も、体操服も。
全部。
ない。
「……どこ」
口に出る。
すぐ返る。
「さあ」
「知らね」
「管理できてないお前が悪い」
笑い。
「困るんだけど」
言ってしまう。
一瞬。
空気が止まる。
「困る?」
低い声。
近づいてくる。
「お前が?」
肩を強く押される。
壁に当たる。
鈍い音。
「立場分かってる?」
距離が近い。
逃げられない。
「……ごめん」
すぐ言う。
でも、遅い。
腹に、強い衝撃。
一瞬で、息が抜ける。
声が出ない。
体が折れる。
「ちゃんと立てよ」
もう一発。
今度は、もっと深く。
空気が入らない。
視界が白くなる。
音が遠くなる。
膝が落ちる。
「倒れるなって」
笑い。
誰かが、無理やり引き上げる。
でも、体がついてこない。
そのまま、落ちる。
意識が切れる。
感覚が戻る。
音から戻る。
笑い声。
近い。
「起きた?」
誰かの声。
視界がぼやける。
天井。
教室。
そのまま、引き起こされる。
首が重い。
体が言うことを聞かない。
「ほら」
何かを差し出される。
手元。
小さい、黒い粒。
一瞬で分かる。
動物の糞。
「食えよ」
軽い声。
頭が止まる。
「無理」
即答。
「無理?」
笑い。
「選べると思ってんの?」
距離が詰まる。
「命令」
短く。
周りの視線。
逃げ場がない。
「……やだ」
小さく言う。
その瞬間。
首元に手がかかる。
強く。
一気に締まる。
息が止まる。
「抵抗すんな」
低い声。
「力抜け」
さらに圧がかかる。
視界が揺れる。
酸素が足りない。
手が、反射で動く。
でも、振り払えない。
「な?」
耳元。
「できるだろ」
意識が遠くなる。
怖さが、先に来る。
「……わかった」
無理やり出す。
圧が少し緩む。
空気が一気に入る。
咳き込む。
「最初からそう言えよ」
笑い。
手の中のそれを見る。
見ないようにする。
でも、見える。
「早く」
急かされる。
周りの視線。
全部、見ている。
逃げ場はない。
口に入れる。
味を感じる前に、飲み込む。
喉が拒否する。
でも、押し込む。
「……っ」
声が漏れる。
笑いが広がる。
「やればできんじゃん」
「最初からやれよ」
背中を叩かれる。
軽く。
でも、逃げられない。
首元に、また手がかかる。
今度は軽く。
「ほら、ちゃんと立て」
力を抜かれる。
離される。
膝が少し揺れる。
でも、倒れない。
「弱すぎ」
「ほんと使えない」
笑い。
遥は立っている。
立っているだけ。
頭の中が、空白になる。
さっきまでのことが、 繋がらない。
ただ一つだけ、残る。
従えば、終わる。
逆らえば、続く。
それだけ。
それだけが、はっきりしている。
コメント
1件
みぅです🤍 第81話、読み終えました……。 胸が痛すぎて、息が止まるかと思った。 掃除用具ロッカーに閉じ込められて、カバンも靴もなくて、最後にあんなことまでさせられるなんて。 特に「従えば、終わる。逆らえば、続く」っていう遥の思考が、もう全部を諦めたみたいで……読んでてこっちまで息苦しくなった。日常のまま、あの空間だけが歪んでる感じが、すごくリアルで怖かったです。 ruruhaさんの描く"逃げ場のなさ"、毎回心臓掴まれます……🥀