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探偵社の机いっぱいに、同じ内容のメモが並んでいる。日時、場所、出来事。
感情の動き。
結論。
文字の癖こそ違うが、意味はほとんど変わらない。
「……きれいだね」
真琴が、感心したように言った。
「皮肉?」
燈が即座に返す。
「半分くらい本音。ここまで揃うと、逆に感心しない?」
「しねえよ」
燈は椅子を軋ませて足を組み替えた。
「気持ち悪いだけだ」
玲は無言で資料を並べ替えていた。
項目ごとに揃え、重なりを確認し、ズレを探す。
「嘘の兆候は?」
真琴が聞く。
「ゼロ」
即答だった。
「全員、記憶として定着している。思い出そうとしてる反応も同じ」
「演技じゃないってこと?」
「少なくとも、自覚的な虚偽ではない」
「じゃあ何だよ」
燈が机を軽く叩く。
「全員まとめて洗脳でもされたって?」
「言い方」
真琴が苦笑する。
澪は一歩引いた位置で、静かに様子を見ていた。
口は挟まない。ただ、資料の端にある小さな一致点を指でなぞる。
(順番……)
証言の順序が、妙に揃っている。
出来事A、次にB、その後C。
誰一人、前後を入れ替えない。
伊藤はプリンターの前で、追加資料をまとめていた。
「時系列、出すぞ」
「ありがとう」
真琴が言う。
紙が配られ、四人の視線が集まる。
「……ほら」
玲が指差す。
「感情のピークが、全員同じ場面」
「普通、違うとこで引っかかるだろ」
燈が吐き捨てる。
「怖かったなら、もっと前とか後とか」
「“怖かった理由”も一致してる」
真琴が言う。
「状況説明と感情説明が、同じ割合」
澪が、小さく付け足した。
「……説明文、みたい」
一瞬、空気が止まる。
燈が澪を見る。
「何?」
「ううん。ただ……」
澪はそれ以上言わなかった。
伊藤が口を開く。
「人は、同じ情報を同じ順序で受け取ると、似た記憶を持つ」
玲が伊藤を見る。
「……一般論としては、そう」
「今回、それが極端なだけだ」
「極端すぎる」
燈が眉間に皺を寄せる。
「全員が“同じ話”を聞いた可能性?」
「どこで?」
真琴が首を傾げる。
「説明会? 集会? 動画?」
「資料は見つかってない」
玲が淡々と答える。
「でも、可能性はある」
「証言が正しいってこと?」
真琴が確認する。
「“事実として”ではなく、“記憶として”」
玲はそう言い切った。
燈が舌打ちする。
「じゃあ真実はどこ行ったんだよ」
「消えたわけじゃない」
真琴が静かに言う。
「ただ、誰も持ってないだけ」
その言葉に、少しだけ重さが落ちた。
澪は資料を閉じ、唇に指を当てる。
(誰も嘘をついてないのに……)
伊藤は何も言わず、ファイルを揃える。
「今日のところは、ここまででいいか」
「うん」
真琴が頷く。
「分析はできた。次は……」
「結論、か」
燈が言う。
「嫌な結論になりそうだな」
「探偵社的には?」
玲が聞く。
真琴は少し考えてから、笑った。
「“悪意は見当たらない”ってところかな」
「それで納得できる?」
燈が睨む。
「できない人もいる」
真琴ははっきり言った。
「でも、依頼人が何を求めてるか、だね」
その夜、事務所の灯りが消えたあと。
澪だけが少し遅れて資料を見返していた。
同じ順序。
同じ言葉。
同じ感情。
(……揃いすぎ)
その違和感を、まだ言葉にはしなかった。