コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
教室のドアを開けると、女子たちがすでに机の周りに集まっていた。中央にはメイド服が置かれている。ひらひらのスカート、胸元にリボン、袖口にはレース。隣にはウィッグも置かれ、黒色の長い髪が艶やかに広がっていた。
「さあ、遥。着てみよっか」
誰もかばわず、声だけが残酷に響く。男子たちの笑い声が背後で絡む。
「……は?」
声を絞り出すが、意味を理解してもらえるはずもない。
女子たちは無言でウィッグを頭にかぶせ、髪の毛を整える。
「わ、……わかった……」
言葉は弱く、声はかすれていた。髪を巻かれ、額にピンが刺さる感覚にも我慢するしかない。
次にメイド服を手渡される。腕を通すと、スカートのひらひらが足元で揺れる。胸のリボンを結ぶ動作も、必死にこなすしかなかった。
「ぎこちないなー、もっと笑顔!」
男子の声が上がる。クラスの視線が一斉に自分を捕らえる。逃げられない。
「は、はい……」
返事は弱く、ぎこちなく、しかし精一杯の笑顔を作ろうとする。
その瞬間、スマホが向けられ、動画が撮られる。
「カメラ目線忘れんなよ! 可愛くしてやれ」
笑い声と共に、さらなる羞恥が重なる。
ウィッグの重みで首が痛くなり、メイド服の締め付けで肩がこわばる。それでも笑顔を崩せば、すぐに嗤いの対象になる。
「もっと膝曲げろ! 礼儀正しく!」
無理やりポーズを取らされ、身体は冷たく震える。手先の動き一つ、笑われるかどうかで緊張する。
休み時間、他の生徒が教室を出ると、男子数人が残り、手加減のない声でこれもやれ、あれもやれと指示を出す。
「そのポーズ、もっと恥ずかしがってる感じで」
ウィッグの髪に触れられ、胸元のリボンを揺さぶられ、スカートの裾を引っ張られる。反抗すれば笑いものにされ、従えば羞恥が増す。
教室に戻ったクラスメイトも、撮った動画を見ながら嗤う。
「文化祭のときより上手くやってる」
「次はもっと派手にしてほしいな」
遥は黙ってうなずくだけ。心の中で自己否定が渦巻き、口を開けばまた「はい」としか言えない。逃げられない、止められない、ただ笑顔を作るしかない自分。
教室の窓から差し込む光も、ウィッグの髪の艶も、すべてが遥をさらす舞台装置に見える。周囲の嗤い声が波となって、心の奥を削っていく。
喧騒と歓声が、遥を一人の「存在」としてではなく、笑いものとして完全に固定していた。どれだけ必死に耐えても、誰も助けてはくれない。存在そのものが、クラスの娯楽になってしまったのだ。