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蓮翔が夜の訪問から戻ったのは、深夜二時を回った頃だった。そのままの服で、誰かの家に立ち寄る。合鍵があるのは当然のように。
キッチンの灯だけが点いた静かな部屋に、蒼翔が先にいた。
ノートPCを開いたまま、椅子を斜めにして座っている。
「やったの?」
蒼翔の声は無関心だった。聞いているようで聞いていない。
「録っただけ」
「ふうん」
返事にならない返事。だがそれで十分だった。
蓮翔はポケットからスマホを取り出し、画面を見せる。
映っているのは、声を押し殺して何かを言う悠翔の顔。
目が、何も見ていなかった。
蒼翔は片目だけでそれを見たあと、無表情のままつぶやいた。
「……バズるやつじゃない。けど、効くね」
「出すのはまだ早いだろ。陽翔も、使い道考えてるって」
「どうせ“例の方法”で来るんでしょ。外部講師の推薦かなんか使って」
「そう。で、あいつの大学生活、俺らで“育てる”んだってさ。どう育てるかはお前ら次第、だとよ」
蒼翔の口元がわずかに歪んだ。
それは笑みではない。処刑前の観察者の顔。
「いいじゃん。やる気出てきた」
蓮翔は笑って、それに応じた。
兄弟の会話には、“もしも”も“やめよう”も、存在しなかった。