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次の日。
レイナードは体を鈍らせない為にと、朝早くから庭を借りて体力錬成をしている。そんな彼の様子に興味を持ってカイル達が夫婦揃って外に出て来た。カイルと共に剣技の模擬戦をしたり、イレイラに用意してもらった多種多様なダンベルを使っての筋肉トレーニングもする。周辺の森を徘徊する魔物を消し去りながら数十キロ走ったりもして健康的な汗を流す。運動が好きな彼にとって、この時間はたいへん有意義なものとなった。
浴室で体を綺麗にし、アルと雑談を交わしながら昼食を取る。 その時に『今日はお茶の時間に勝負をしよう』という伝達を聞かされ、彼の上がっていた気分が少し下がった。避ける事が出来ないのはわかっていたので、渋々ではあったものの了承の意を伝えるように伝達者へと頼む。
レイナードは茶会までの隙間時間を使ってカイルの執務室に行くことにした。一昨日決めた事を相談する為にだ。
「あぁ、レイナード。アルもよく来たね」
執務室にレイナード達が入るなり、アルがカイルの方へと飛んで行く。すかさず彼の肩にとまると、嬉しそうにカイルの顔へ頬ずりをした。
レイナードに頼まれた為、カイルはもうアルに対して冷たい態度を一切取らないので、アルは好かれていない事を全く気が付いていない。魔物の食べ過ぎで腐敗しつつあったた体を捨てて新しい体に生まれ変わったので、カイルの方も好かれる事に抵抗が無いみたいだ。フワフワの毛はないが、カイルにとって小さい存在は基本なんでも可愛いからだろう。
カイルに口元を指で掻いてもらい、アルがウットリと瞼を閉じる。その様子を見ているレイナードの口元が少し緩んだ。
「さっきは言い損ねたんだけど、昨日はお疲れ様。今日も……これからまだあるよね。面倒な事をさせてしまって、本当に申し訳なく思うよ」
「ははは……。まぁ、まさかスタイル勝負から入るとは思いませんでしたよ。『惚れさせる』の意味がよくわからなかったのですが、ああいうものなんですか?」
乾いた笑いがレイナードから出た。 お見合いの経験すら無い彼には、興味を引く為にする行為がどんなものなのかイマイチわからない。
「いやー……全然違うと思うよ?僕もビックリしてるもん。ロシェルだけだったらもっと違う事になったろうに、変なのが一緒だからなぁ」
カイルが苦笑し、彼の肩で寛ぐアルも口を挟んだ。
『サキュロスは厄介な奴じゃからのう。でもまぁ飽きっぽいところもあるし、そのうち馬に蹴られて退散するじゃろ』
どう見ても両片思いの二人の間に入ろうとしても、恋路の邪魔でしかないと思っての発言だった。
「ところで、レイナードはそんな話をしに此処へ来たの?まぁ、雑談だけしに来てくれても、全然構わないんだけどね。君の事は好きだし」
扉の前で立ったままだったレイナードを応接セットのソファーに座るよう促し、カイルが言った。
言葉に応じてレイナードが座る。早速本題に入ろうと、彼は口を開いた。
「ロシェルの事を少し」
「何?結婚の申し込みかい?」
茶化す様な口調でカイルが言うと、「違います!」と顔を赤くしてレイナードが叫んだ。
「しご、仕事が、欲しいのです。身を固める為に。それで、使い魔でもある為、ロシェルの関わる何か、仕事が……無いかと思いまして」
動揺し、少しどもりながらレイナードが言った。
「……あれ?同じ意味じゃない?それって」
身を固める=家庭を持ちたいという意味だった筈なのにと、カイルが首を傾げた。
「……カイル、今からする話は他言無用に願えますか?」
「妻にも話しちゃダメな事だね。わかった、いいよ」
ニッと笑い、カイルは机の側にいある席から移動してレイナードの対面に座った。それを見てレイナードは「ありがとうございます」と言ってから、ポツポツと、カルサールでの生い立ちをカイル達に話し始めた。
「——なるほどね、レイナードはお嫁さんが欲しいと」
改めて言われ、レイナードが大きなガタイを恥ずかしさから小さくし、視線をそっと逸らした。
『なら、ロシェルを貰ってやってよ』と言いたい気持ちをカイルがぐっと堪える。
アルもパクパクと口を動かしたが、『ロシェルとしたらいい』と言うのをやめた。きっと主人には言っても無駄だと、もう悟っている。
「んで、騎士団長という最高職を提げての婚活が出来なくなった為、新しく仕事が欲しいと」
「そう言われると恥ずかしいのですが、まぁ……そうですね」
レイナードが頷き、膝の上で手を揉む。居たたまれない気持ちを必死に誤魔化そうとしている。誠実に全て話したが、全てを言う必要は無かったのでは?と今更気が付いた。
「でも、君はもう仕事をしているよね?これ以上何か追加で必要だった?」
「『使い魔』という立ち位置は、『仕事』としてカウントしていいのですか?」
「もちろんだよ!ロシェルの側使は充分仕事でしょう?それに今の君は黒竜との契約者だ。森の魔物管理も……あれ?もしかして、アルから聞いてないの?」
ハッとした顔をし、カイルがアルの顔を見た。視線を感じてアルが『ん?』と首を傾げる。
『定期的に魔物を喰いに戻らんと、空腹でキツイとは話したぞ?』
「その言い方じゃ、『義務』や『仕事』だとは受け止めないよね」
カイルの言葉に、レイナードが頷く。
「まぁ、つまり君は、現時点で神殿にて定職のある立派な成人男性って事だ。そうなると、今回の件は渡りに船って感じなんじゃないかい?」
今回の事とは、もちろんくだらない勝負の事を指している。
「まぁ……」と言い、レイナードが言葉を濁した。 カイルはサキュロスとの事を言っているのだろうと 彼は思った。
会うなり求婚してきたのはサキュロスで、ロシェルじゃない。
彼女は巻き込まれただけで、追い返す口実を作る為に参加したのだとレイナードは受け止めているので、彼がそう考えても無理はなかった。
「強制はしないけど、いい機会だと受け止めるといいよ。異性に慣れるには丁度いいかもね」
サキュロスを異性だとそもそも認識していないので乗り気にはなれず、レイナードが曖昧に頷く。彼とどうこうなろうとなど微塵も考えられない。だがロシェルなら……と一瞬考えたが、直ぐに頭を振った。
(主人に対して何を馬鹿な事を)
その様子をカイルとアルがジッと見守る。年の功からか、彼等にはレイナードの心の流れが全てお見通しだった。
「まぁ……君の望みが、ここでも叶える事が出来るもので安心したよ。話してくれてありがとう」
本心だった。カイルはレイナードの本当の望みを聞けて心底ホッとしていた。自分のミスの連続で異世界へ帰す事が出来なくなった事をカイルはまだ割り切れていない。でもこれで少しは気持ちを整理出来そうだ。
「今回の件がいい結果に繋がるといいね」
『そうじゃな』
カイルとアルが仲良く内緒話をして頷きあい、それ以降は敢えて無駄話に話を咲かせ、二人はレイナードのストレス発散に付き合ったのだった。