テラーノベル
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連中は、遥を置いたまま映画館の中へ消えた。もともと、遥は映画を観るために来ていない。
入口のガラス扉が閉まる音がして、
館内の暖気が一瞬だけ外へ逃げ、すぐに遮断される。
残されたのは、雪。
外は本降りだった。
駐車場とモールの通路をつなぐ屋外スペース。
屋根はあるが、風は横から容赦なく入り込む。
遥は、薄着にさせられている。
上着は持ってこさせてもらえなかった。
「邪魔」
「汚れる」
そう言われて、置いてきた。
(寒い……)
声に出すと、
「うるさい」
「気のせい」
「大げさ」
そうなるのがわかっているから、言わない。
ベンチに座ることは許されていない。
「座るなよ」
「立ってろ」
入る前に、そう言われていた。
だから、立つ。
足の裏から冷えが上がってくる。
雪解け水が靴の中に染み込み、指先の感覚が薄れていく。
(映画……何分だっけ)
(……二時間)
考えた瞬間、思考が止まる。
通行人が、ちらっと見る。
制服でもない、客でもない、 場違いな少年が、薄着で立たされている光景。
誰も声をかけない。
関係ないから。
それが、この場所の「普通」だ。
途中、警備員が遠目に視線を向ける。
だが、連れはいない。
本人も何も言わない。
問題は起きていない、と判断される。
(……動いたら、怒られる)
遥は、ただ立ち続ける。
時間が進むにつれて、
寒さは「冷たい」から「痛い」に変わる。
膝が震える。
歯が、勝手に鳴る。
(やめろ……)
(気づかれる……)
必死に噛み殺す。
どれくらい経ったのか、わからない。
雪の音だけが、やけに大きい。
自分の呼吸だけが、白く浮く。
(俺、ここで倒れたら……迷惑……だよな)
そんなことを考えている時点で、もう、思考は壊れ始めている。
ようやく、ガラス扉が開く。
暖気と一緒に、笑い声が流れ出る。
映画の感想。
「面白かった」
「あそこ笑った」
その会話の延長で、遥を見る。
「あ、まだいた」
「真面目だね」
褒めているような口調。
でも、確認しているだけだ。
逃げてないか。
勝手なことをしていないか。
「帰るよ」
それは命令で、救いではない。
遥は頷き、何も言わず、後ろに回る。
足先の感覚は、ほとんどない。
でも、歩く。
(遅れたら……)
(帰ったら……)
どっちに転んでも、地獄は続く。
ただ、ここで倒れると、もっと面倒になる。
だから、歩く。
雪の中、“物”として。
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