12月。街はイルミネーションで彩られ、校舎の窓にも小さなツリーが飾られていた。放課後、大地は机に肘をつき、にやにやしながら隼人を見つめていた。
「なぁ隼人。今年のクリスマスプレゼント、何が欲しい?」
「別にいらねぇ」
「そう言うと思ってもう用意してあるんだよな〜!」
「いらねぇって言ってんだろ」
隼人はため息をついたが、大地は全く気にせずカバンをガサゴソ漁りはじめた。
クリスマス当日。校内のイベントで生徒会がサンタ帽を配っており、大地は嬉々として被っていた。
「見ろよ隼人! 俺、今日から公式サンタだ!」
「どこの公式だ」
「お前の公式だろ!?」
「違うわ!」
そのやりとりを見ていたクラスメイトたちは、「また始まった」と笑いながら見守っている。
放課後。教室には二人きり。窓の外にはちらほら雪が舞いはじめていた。
大地は真剣な顔で隼人に小さな箱を差し出した。
「……隼人。これ、クリスマスプレゼント」
「……は? 箱?」
「開けてみろよ!」
訝しげに隼人が蓋を開けると、中には安っぽい銀色の指輪が入っていた。
おもちゃ屋で売っているようなプラスチック製。しかし大地は誇らしげに胸を張った。
「じゃーん! 婚約指輪だ!」
「……はぁ!?」
「お前にプロポーズするために探してきた! 百均で!」
「そんなもん渡すな!」
大地は隼人の手を取って、半ば強引に指輪をはめた。
「見ろ! ぴったりだ! 俺たち、運命だな!」
「サイズ調整できるやつだからだろ!」
「隼人の薬指、今日から俺のものだ!」
「返せ!」
必死に指輪を外そうとする隼人を、大地は満面の笑みで見つめていた。
そのとき、窓の外で花火が上がった。クリスマスイベントの打ち上げだった。
教室が一瞬明るく照らされ、二人の影が重なる。
大地は静かに呟いた。
「なぁ隼人……俺、本気だぞ。笑いでも冗談でもなく……お前と一緒にいたいって思ってる」
いつもの馬鹿みたいな笑顔の奥に、ほんの少しだけ真剣さが混ざっていた。
隼人は息を飲み、顔をそらす。
「……お前ってやつは……」
「うん?」
「……百均で誤魔化すな。もっとマシなの用意してから言え」
その言葉に、大地はぱぁっと笑顔を広げた。
「じゃあ決まりだな! 次はちゃんとバイトして買うから! 結婚資金貯めなきゃ!」
「バカ!」
だが隼人の指には、まだちゃちな指輪が光っていた。
それを無理に外すことなく、隼人はただ照れ隠しに窓の外の雪を眺めた。