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2月。教室中がそわそわした雰囲気に包まれていた。バレンタインデー。廊下では女子たちがこそこそ袋を渡したり、男子が妙に浮き足立っていたり。
そんな中、大地は机にドンと大きな箱を置いた。
「ジャーン! 隼人のために作った、愛の手作りチョコ!」
「お前なぁ……男同士でやるもんじゃねぇだろ」
「うるさい! 気持ちは性別を超えるんだ!」
「超えなくていい!」
大地のチョコは明らかにデカすぎる。ケーキに近いサイズで、しかも表面にホワイトチョコででかでかと文字が書いてある。
《だいすき♡けっこんしよ》
教室は一瞬静まり返り、次の瞬間爆笑に包まれた。
「「「プロポーズチョコかよ!」」」
隼人は頭を抱えた。
昼休み。隼人は仕方なくその巨大チョコを受け取って屋上へ。
大地も嬉しそうについてきた。
「なぁ隼人。チョコ、食べてみてよ」
「こんなの食えるか」
「俺、頑張って作ったんだぞ! ほら、味見!」
大地は無理やりひとかけらを割り、隼人の口に突っ込んだ。
隼人は渋々噛みしめ――顔をしかめた。
「……苦ぇ……砂糖入れ忘れてんだろ」
「あっ……愛情で甘くなると思った!」
「なるか!」
屋上に笑い声が響く。だが大地はポケットをごそごそ探り、もうひとつ、小さな包みを取り出した。
「……実はな、本命はこっちなんだ」
「は?」
差し出されたのは小さなチョコトリュフ。ラッピングも丁寧で、さっきのバカでかいケーキとは大違いだった。
隼人が不思議そうに見ていると、大地は少し照れながら言った。
「……中、食ってみて」
隼人がひと口かじると、チョコの中心から薄い紙が出てきた。
取り出して広げると、そこにはこう書かれていた。
《隼人がいなきゃ、俺の人生は不合格》
隼人の耳まで赤くなる。
「……お前……答案に続いて今度はチョコにまで仕込むな」
「俺の気持ちは常にインストール済みなんだよ!」
「はぁ……」
ため息をつきながらも、隼人は残りのチョコを口に入れた。
ほんのり甘くて、さっきよりずっと美味しい。
大地はにこにこしながら言った。
「なぁ隼人。ホワイトデー、楽しみにしてるからな」
「やるわけねぇだろ」
「もう今から指輪でいいぞ!」
「バカ!」
だが隼人のポケットの中では、さっきのメッセージが小さく折りたたまれたまま、しっかりと仕舞われていた。