テラーノベル
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真夜中の白さがほどけた時、サベリオはもう跳ね起きていた。
しずくシェルターの天井。雨どいの細かな音。まだ誰も何も失っていない朝の匂い。何度も見たはずの光景なのに、今度だけは胸の鳴り方が違う。
次こそ、全員の春を連れていく。
そのためには、もう一人で抱え込む形を終わらせるしかなかった。
朝の準備が始まる前、サベリオは主要な顔ぶれをシェルターの大机へ集めた。デシア、ミゲロ、アルヴェ、トゥラン、ニカット、ホレ、ロヴィーサ、グルナラ。呼ばれた理由が分からないまま、皆が椅子を引く。
ヌバーだけは最初から妙に察しがよく、机の端で小声を落とした。
「これ、軽いやつじゃないですね」
サベリオは深く息を吸った。
「たぶん、信じてもらえない話をする」
アルヴェが眉を上げる。
「前置きが不穏だな」
「でも、今まで俺が危ない場所を先回りして言えたこととか、雨の切り替えを妙に知ってたこととか、全部その話につながってる」
喉がからからに乾く。
「俺、この一週間を何度もやり直してる」
沈黙が落ちた。
風が一枚、机の上の紙を鳴らす。その小さな音だけがやけに大きい。
ミゲロは目をそらさなかった。デシアも、驚いた顔のままじっとこちらを見ている。けれどアルヴェは腕を組み、トゥランは表情を消した。ニカットに至っては、疑う前に整理しようとする顔をしていた。
サベリオは続ける。
「最初は祭りの夜に事故が起きて、俺は死んだ。そこから何度も戻った。橋の床板、照明、配線、群衆の流れ、帳簿、許可、全部、失敗の形が違った」
ロヴィーサが小さく息をのむ。
「だから、あの地下時計のことを……」
「あとから調べてつながった」
トゥランが低く言う。
「証拠はあるのか」
「ない」
サベリオは正直に答えた。
「でも、俺が知ってることは、これから起きる危険と、起きる前に潰せるほころびだ」
ホレが机の表を見下ろしながらつぶやく。
「理屈はめちゃくちゃ。でも、辻褄が合うところは多いんだよね」
ニカットがペン先で机を軽く叩いた。
「全部を信じるかは別として、君の知っている失敗を聞く価値はある」
アルヴェはまだ硬い顔のままだ。
「本気で言ってるのか」
「本気だよ」
「だったら、何で今まで全部言わなかった」
その問いが胸に刺さる。
「信じてもらえないと思った。あと……俺が間違った時に、責任を誰にも渡したくなかった」
デシアが静かに口を開いた。
「それ、自分だけで失敗を抱えるってことでしょ」
サベリオはうなずくしかなかった。
少しの沈黙のあと、彼女はまっすぐ言った。
「私は信じる」
視線が集まる。
デシアはまばたき一つせず、サベリオを見た。
「全部を証明できなくても、あなたが何度も同じ春で泣いてきたことは分かる。今回は、信じる方を選ぶ」
ミゲロも続く。
「俺も」
ヌバーが肩をすくめた。
「ここまで来たら、信じないほうが損な気がするんですよね」
ホレは紙束を引き寄せる。
「じゃあ、聞かせて。どこが崩れやすいのか、順番に」
アルヴェは長く息を吐き、最後にうなずいた。
「いい。信じるかどうかは動きながら決める。だが、今ここで共有されたなら、もうお前一人の話じゃない」
トゥランも短く言う。
「危険の形が見えてるなら使う。以上」
その言葉で、肩に食い込んでいた重さが少しだけ外れた。
サベリオは机の上へ両手を置く。
「じゃあ始めよう」
最後の一週間を、今度こそ皆の手で。
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