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方針が決まると、世界は急に具体的になる。
橋を入口演出に使い、本舞台はしずくシェルターへ置く。言葉にすれば一行だが、現場では何十人分もの足と手と確認が要った。
午前中の橋では、トゥランが観客の流れを何度も歩いて確認していた。
「ここで立ち止まらせない」
そう言いながら、自分で橋を渡って見せる。入口の印象は残しながら、人の足は止めない。その難しい線を、彼は体で覚えようとしていた。
アルヴェは反対側から全体を眺めている。
「橋の上で見せたいのは三十秒だ。それ以上は中で受け取らせる」
以前なら譲らなかった言い方に、今は引き算の覚悟が混じっていた。
シェルターの中では、ジャスパートが灯りの角度を微調整していた。橋の提灯の色味をそのまま室内へ引き込むため、薄い紙を一枚ずつ替えながら光の温度を合わせていく。
「外が終わって中が始まるんじゃない」
彼は珍しく自分から説明した。
「最初から一つの夜に見えないと駄目なんだ」
サディオは床にしゃがみ込み、鐘の音を中継する装置へ工具を差し込んでいた。配線の先には樋と空き瓶を組んだ雨楽器までつながっている。
「雨が降ったら、負けるんじゃなくて主役交代だ」
手を止めずに言う声がうれしそうだ。
デシアは橋とシェルターの間を何度も往復し、録音機で音のつながりを確かめていた。橋の上の風音、入口の足音、室内の反響、樋をつたうしずくの音。その順番を少しずつ並べ替えながら、夜全体の物語を組み直していく。
サベリオはその動きを見ながら、胸の奥に不思議な静けさが広がるのを感じていた。
これまで雨天時の代替案は、あくまで失敗しないための逃げ道に見えていた。けれど今は違う。橋からシェルターへつなぐ構成そのものが、この町らしい形になりつつある。
ヴィタノフとコスタチンは、入口側の仮補修を終えてからシェルターの搬入口まで見に来た。
「中で人が詰まるなら、こっちも広げる」
ヴィタノフが短く言い、コスタチンがすぐに寸法を測る。
ホレは大机の表へ新しい線を書き込んだ。
橋、入口、シェルター、雨天切り替え、再開の順番。紙の上の矢印が、ようやく一本の川みたいにつながっていく。
その川の流れを見ながら、サベリオはふと思った。
事故を防ぐために作ったものが、そのまま誰かの心を動かす舞台になるなら、何度もの失敗もただの遠回りではなかったのかもしれない。
夕方、最後の通し確認が終わる。
橋の入口で小さく鐘を鳴らし、観客役の面々がシェルターへ流れ込み、ジャスパートの灯りが室内へつながる。少し遅れてサディオの中継が入ると、デシアが目を細めた。
「うん」
彼女が小さく笑う。
「やっと一つの夜になってきた」
#成り上がり
#死に戻り
#ハッピーエンド
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その言葉に、サベリオの肩からまた一枚、見えない重さが落ちた。