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一週間後。
この日、七星は新しい患者を迎え入れるため、特別室の準備に大急ぎで取りかかっていた。
この“特別室”はめったに使われない部屋で、本来なら「入院は来週だから、ゆっくりでいいわよ」と由希に言われていた。
ところが今日になって別の看護師から「今日入るから急いで!」と言われ、七星はひとりで必死に準備を進めていた。
よりによって今日は看護助手の人数が一番少ない日。
百花も休みで、七星は完全にワンオペ状態だった。
噂では、特別室に入院してくるのは地元の名士の息子らしい。
この地域で人気の飲食店をいくつも経営する社長の御曹司で、地元でもよく知られた人物だ。
ナースステーションではその話題で持ち切りだったが、七星にはそんな噂話に耳を傾ける余裕などなかった。
シーツの隅をピシッとマットレスの下に挟み込み、ようやく準備が整ったところへ、間一髪で由希が新しい患者を連れて部屋へ入ってきた。
「大迫様、どうぞこちらです」
由希の声に気づいた七星は、慌てて壁際に下がる。
その後ろから、三十代ほどのジャケット姿の男性が現れ、部屋を見回して気の抜けた声で言った。
「ふーん、いいんじゃないの?」
「お気に召していただけてよかったです」
由希が媚びるような声で応じる。
その様子に、七星は思わず心の中でため息をついた。
(また男に色目使ってる……)
自分より年上なのに、お金持ちやイケメンの患者が来ると態度を変える由希に、七星はうんざりしていた。
もう少しプライドやプロ意識はないのだろうか――そう思わずにはいられない。
その気持ちが顔に出てしまったのか、由希が七星をキッとにらみつけ、きつい口調で言い放った。
「遠坂さん、これからはもっと自覚を持って、早めに準備してくださいね」
患者の前でまさかそんなことを言われるとは思わず、七星は驚いた。
だが、患者がいる以上、反論はできない。
「申し訳ございません」
隅に立つ七星に気づいた大迫が、由希に尋ねた。
「何? なんかあったの?」
待ってましたとばかりに、由希が生き生きとした表情で言う。
「もう困ったもんなんですよ。今日、大迫様が入院されるのを知っていたのに、彼女ったらいつまでもお部屋の準備をしてくれないんですから」
その言葉に、七星は思わず口を開いた。
「それは、平子さんが入院は来週だと仰っていたから……」
「えっ? 私そんなこと言ってないわよ。新しい患者さんが特別室へ入るのは今日だって、たしかに言ったはずよ」
「いえ、私は聞いてないです」
「それは卑怯じゃない? 自分のミスを人のせいにするなんて……」
二人が言い合いになりかけたそのとき、大迫が割って入った。
「まあまあ、間に合ったんだからいいじゃないの」
その瞬間、大迫が七星の顔を見て叫んだ。
「リリちゃん?」
キャバ嬢時代の源氏名で呼ばれ、七星は驚いて顔を上げた。
「あ~、やっぱりリリちゃんだ! びっくりしたな~、まさかこんなところで再会できるなんて!」
そこで七星もようやく思い出した。
「あっ、大迫……さん?」
「そうそう、大迫! 君、急に店を辞めちゃったから、どうしたのかなってずっと思ってたんだよ」
「すみません。祖母が急に亡くなったり、ちょっといろいろあったものですから……」
「ああ、リリちゃんはおばあちゃんに育てられたんだよな。そっかあ……おばあちゃん、亡くなったのか。それは残念だったね。でも、まさかここで会えるとは思わなかったよ」
盛り上がる二人の間に、今度は由希が割って入る。
「大迫様! こちらに着替えてから横になってお待ちください。間もなく担当医が参りますので」
そう言いながら、由希は手で“しっしっ”と七星を追い払うような仕草をした。
出て行けと言いたいのだろう。
ここで逆らえば、あとがもっと面倒になる――そう察した七星は、
「では、失礼します」
と頭を下げ、出口へ向かった。
「リリちゃん、もう行っちゃうの~? また会いに来てくれるよね?」
その声に軽く会釈し、七星は静かに特別室を後にした。
その日、病院内では大迫の話題で持ちきりだった。
少し軽い印象はあるものの、そこそこイケメンで、しかもお金持ち。
もちろん「大迫家の御曹司が、七星のいたキャバクラに入り浸っていたらしい」という噂も、瞬く間に広まった。
ナースステーションでは、由希が「七星が大迫に色目を使っていた」とか、「キャバクラ時代に二人は深い仲だったんじゃないか」などと、根も葉もない噂を吹聴していた。
その噂を真に受けた同僚たちは、七星を見るたびに、まるで“汚物”でも見るような冷たい視線を向けるのだった。
一方、医局にも悪い噂はすぐに届いた。
興味深々の斉藤が、野中に尋ねる。
「遠坂さんがキャバクラで働いていたって、本当なんですか?」
野中は眉をひそめ、たしなめるように言った。
「そんなこと、どうだっていいだろう?」
「す、すみません。噂を聞いて、ちょっと驚いてしまって……」
「今の遠坂さんは、うちの看護助手だ。真面目に働いてくれて、患者さんたちからの評判もいい。だから、過去にどんな仕事をしていたかなんて関係ないだろう?」
「……そうですよね。すみません、変なこと聞いて」
そう言って、斉藤は肩を落としながら午後の外来へ向かうため、医局をあとにした。
医局に二人きりになると、野中が優人に声をかけた。
「気にするな……」
「え? 先輩、突然どうしたんですか?」
「顔に書いてあるぞ」
「な、何がですか?」
「言っていいのか?」
「も、もちろんです。僕の顔になんて書いてありました?」
「“七星ちゃんと大迫家の御曹司って、どんな関係なんだろう” ってな」
「…………」
「図星だろ?」
「い、いえ……」
優人の困ったような表情を見て、野中は穏やかに言った。
「気にするな。あの子はそんな子じゃない。お前だって分かってるだろ?」
「もちろん、分かってます……」
「大丈夫だ。二人はただのスタッフと客で、きっと何にもないさ。でもまあ、気になるなら本人に直接聞いてみればいい」
(本人に、直接……?)
噂を耳にして以来ずっと憂鬱だった優人は、野中の言葉を思い返しながら、七星に面と向かって確かめるべきかどうか考え始めていた。
コメント
11件
本当にここの看護師はひどいですね(泣)同じ看護師として恥ずかしいです😰
嫌なやつ‼️由希‼️ 七星ちゃんを貶める事しか考えてないんだから だからみんなから好かれないんだよ💢💢 大迫さんも源氏名で呼ぶなんて常識知らずだよ 七星ちゃん一生懸命生きているのに😢 優人先生 七星ちゃんを労って支えてほしいな🙏
質の悪い看護師口コミに書かれていていないのかしら?非常識な人、人として嫌われる理由がやまのようにある😫大迫さん、源氏名で呼ばないのよ😫優人さん、気になるなら聞いてみて♡院長ナイス👍七星ちゃんなら、さっぱりと答えてくれるだろうなぁ🥰🥰