テラーノベル
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七星と麗華が話していたと宏太から聞かされた優人は、その後も何度も七星にメッセージを送った。
しかし、いくら送っても既読はつかない。
――もしかして、ブロックされているのかもしれない。
(どういうことだ? 水口さんは七星に、いったい何を話したんだ?)
宏太の推測では、優人に会いに来た七星に対し、麗華がひどい言葉を浴びせて追い返したのではないか、というものだった。
実際、麗華との会話を終えて歩き出した七星の表情は、重く沈んでいたと宏太は言う。
そのことも、包み隠さず優人に伝えてくれた。
「それにしても驚いたな。お前、あの子と付き合ってるのか? 美奈子さんそっくりの彼女と」
「いや、まだ付き合ってはいないよ。でも、近いうちに交際を申し込むつもりだった」
その言葉に、宏太は「ひゅ〜」と口笛を吹いた。
「まさかリハビリで行った千葉の病院で、亡くなった奥さんにそっくりな子と偶然出会って、しかも恋に落ちるなんてな〜。優人くんも隅に置けないねぇ」
「からかうなよ。今はそれどころじゃないんだ」
すると宏太は、妙に自信満々な顔で言った。
「恋愛マスターの俺から言わせてもらうと、こういうときは、即・会いに行くのが一番だ。言葉のやり取りなんて誤解を深めるだけで、何の解決にもならん。最善策は、今すぐ会いに行って抱きしめること。そうすれば全部丸く収まる」
「そうしたいけど、術後の経過観察で今夜は泊まり込みだし、明日も朝イチで内視鏡手術があるんだよ。だから今は動けない……」
優人は悔しそうに唇を噛んだが、ふと何か思いついたように顔を上げた。
「宏太! 明日の内視鏡、代わってくれよ」
「無理無理。俺、内視鏡苦手だし。それに患者の村田さん、お前じゃないと嫌だって言ってたろ?」
「……そうだった」
優人はがっくり肩を落とし、しばらく黙り込んだ。
何かを必死に考えているようだったが、やがてハッとしたように顔を上げ、急いで電話をかけ始めた。
相手は、湊総合病院の野中だった。
「あ、先輩。どうも。すみません、こんな時間に」
自宅に戻っていた野中は、笑顔で携帯を耳に当てる。
「よぉ、優人。元気そうだな。そっちは順調か?」
「はい、ばっちりです」
「それはよかった。で、どうした……こんな時間に。何か用か?」
「実は、少し困ったことになりまして……」
優人は七星と連絡が取れないことを簡潔に説明し、七星への伝言を頼んだ。
「なんかよく分からんが、“大学病院の前で女医から聞いた話は全部でたらめだ”……そう伝えればいいんだな?」
「はい、忙しいのにすみません。あ、あともう一つ。話したいことがあるからブロックは解除してって伝えてください」
野中は思わず大声で笑った。
「ははっ、お前、七星ちゃんにブロックされたのか? 一体何やらかしたんだよ」
「いえ……これにはちょっといろいろ事情がありまして……。とにかく、伝言お願いします」
「分かった分かった。この顛末は、二人が仲直りしてからゆっくり聞かせてもらうよ」
「すみません。じゃあ、お願いします」
「了解。またな」
電話を切ると、優人はふうっと息を吐いた。
「頼りになる先輩がいてよかったな」
「……」
「まあ、そんなに落ち込むなよ。大丈夫だ。傷はまだ浅い」
「だといいけど……」
不安げな優人の肩を、宏太がぽんと軽く叩いた。
翌朝、七星はほとんど眠れないまま朝を迎えた。
優人のこと、父のこと――昨日はあまりにもいろいろありすぎて、頭が興奮してしまい、一睡もできなかった。
顔を洗いながら七星はしっかりしようと、両手で頬を軽く叩いた。
重い気持ちのまま出勤し、着替えていると百花がやってきた。
七星はとりあえず、涼真のことを話した。
「えーっ! 七星がいつも頼りにしてる兄貴分の、あのリーダー格の人でしょう? マジでいいの?」
「いいのってどういう意味よ」
「だって、二人は付き合い長いし親密だからさ。実は七星がその人と付き合うのかなーってずっと思ってたんだよね」
突然の言葉に、七星は目を丸くした。
「ないない! 涼兄はお兄ちゃんみたいな存在だもん。絶対ない!」
「そう? でも向こうはそう思ってないかもよ?」
百花にそう言われ、七星は少し考え込む。
しかし涼真はいつも兄のように接してくれるだけだった。
だから七星は自信を持って言った。
「向こうもないよ。私のこと妹みたいに思ってるんだと思う」
そう言った瞬間、胸の奥に別の痛みが広がった。
(そっか……先生も私のこと、妹みたいに思ってるだけなんだ……。だから涼兄と同じなんだね)
七星の心は、瞬く間に寂しい気持ちで満たされる。
(恋って、しんどい……)
そんな七星の沈んだ気持ちには気づかず、百花は明るく言った。
「じゃあ、ぜひ紹介して〜! その涼真さんだっけ?」
百花の声にハッと我に返った七星は、慌てて答えた。
「オッケー。じゃあ連絡しとくね」
百花は嬉しそうに頷きながら続けた。
「実は、前からいいな〜って思ってたんだよね。七星から涼真さんの話聞いて、頼りがいのあるかっこいい人だなって思ってたの」
「そうだったんだ。それならよかったよ」
百花の笑顔とは対照的に、七星の心は重く沈んだままだった。
「じゃあ、私、トイレ寄ってから病棟行くね」
「うん。後でね」
百花がロッカールームを出るのと入れ替わるように、看護助手主任の杉本が入ってきて、七星に声をかけた。
「あらあら七星ちゃん、どうしたの? 目の下にクマなんて作って。寝不足?」
「あ、いえ……。それより、どうしたんですか?」
「ああ、さっき廊下で野中院長に会ったのよ。そうしたら、七星ちゃんに話があるから、業務を始める前に院長室に来てほしいって」
「院長が? 分かりました……」
七星は「何の用だろう」と思いながら、杉本に返事をした。
その後、着替えを終えた七星はロッカールームを出て、院長室へ向かって歩き出した。
コメント
11件
医院長……なんとか、何とかよろしくお願いしますm(_ _)m
軽医師宏太先生やるじゃん🤣 優人さんは抜けられない手術てんこ盛りで七星ちゃんの元へ駆けつけられないとは…💧 でもでも〜、伝書鳩ならぬ伝書院長📨😆 野中先生なら大丈夫👍️✨️
伊藤先生のファインプレーで、疫病神女医の悪事は分かったものの…🤔 七星ちゃんの誤解を解きたくても、仕事がいっぱいで動けない優人先生、辛いね…😢 野中先生、どうかよろしくお願いいたします🙏
白山小梅