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院長室の前に立った七星は、そっとドアをノックした。
「どうぞ、入って」
「失礼します」
ドアを開けて軽く会釈し、七星は院長室へ入った。
「悪いね。朝一番で呼び出して」
「いえ。何かご用でしょうか?」
「うん。用っていっても、僕からじゃないんだよ」
「えっ?」
七星がきょとんとすると、野中は穏やかな笑みを浮かべた。
「昨日、優人から伝言を預かったんだ」
「あ……」
七星は、携帯の電源を切っていたことや、優人をブロックしたことが原因だとすぐに察した。
「すみません……」
「優人から聞いたよ。七星ちゃん、優人をブロックしてるんだって?」
「えっと……それは……」
七星は言葉に詰まる。
「よかったら、その理由を聞かせてもらえないかな? 悪いようにはしないから」
野中院長が信頼できる人物であることは、七星もよく分かっている。
だが、個人的なことを軽々しく話すべきではないことも理解していた。
「あの……尾崎先生からの伝言は、何て?」
「そうだったね。まずはそれを伝えないと」
野中は、昨日優人から頼まれた言葉をそのまま伝えた。
「一つ目は、“大学病院の前で女医から聞いた話は全部でたらめだ”ということ。二つ目は“話したいことがあるから、ブロックを解除してください”だそうだよ」
「…………」
七星は驚きに目を見開き、頬を赤らめた。
あの真面目で冷静な優人が、院長にこんな個人的な伝言を頼んだのか――その事実に胸がざわつく。
これでは、七星が優人に会いに行ったことも、ブロックしていることも、すべて院長に知られてしまう。
言葉を失っている七星を見て、野中は穏やかに微笑んだ。
「よかったら話してみない? 多少の相談なら乗れると思うよ」
「……はい」
七星は観念し、重い口を開いた。
そして昨日の出来事を、包み隠さず野中に話した。
話を聞き終えた野中は、少し驚いたように眉を上げた。
「その女医の名前は?」
「お名前は伺いませんでした。でも、尾崎先生と同じ職場みたいで……先生の亡くなった奥様の親友だったみたいです」
野中は顎に手を当て、記憶を辿る。
優人の妻の葬儀のとき、派手な女性が甲斐甲斐しく動き回っていた姿が脳裏に浮かんだ。
(あの女性か……? たしか、水口教授のお嬢さんだったような……)
水口麗華の父親は大学病院の教授で、野中は彼のことをよく知っていた。
娘が優人と同じ科に所属していることも、もちろん把握している。
葬儀の際、あまりにも出しゃばる麗華を見て、妻が怪訝そうな顔をしていたのを鮮明に覚えていた。
(当時から優人に世話を焼いて、やけにアピールしていたが……まさかそんな嘘を七星ちゃんに吹き込むとは。困ったもんだ)
野中は内心で深く呆れた。
そして、戸惑いを隠せない七星に向き直り、静かに言った。
「おそらく彼女は優人のことが好きなんだろう。だから、優人と親しくしている君を排除したかった……たぶん、そんなところだ」
「でも、先生の亡くなった奥様に頼まれたって……それって、遺言ですよね?」
「ははっ、まあそうだろうけど、優人の奥さんが本当に言ったという確証はどこにもないよ」
「それは、そう……ですけど……」
「で、それを聞いた君は、二人の邪魔をしてはいけないと思ってブロックした……そういうことだね?」
「はい。私とやり取りしているせいで、先生が誤解されたら申し訳ないと思ったので」
「なるほど。そういうことか」
野中はすべての状況を理解したようだった。
「優人からのメッセージは、水口女史の言葉を完全に否定するものだ。だから、君が信じるべきなのは……」
「尾崎先生の方……ですか?」
「分かってるじゃないか。だから、ブロックを解除して、きちんと話し合った方がいい」
「でも……」
七星は言葉を飲み込んだ。
「でも?」
「私は先生の恋人でもないし、付き合ってくださいと言われたわけでもないので……」
「本当に?」
野中がにやりと笑うと、七星は慌てて大きく頷いた。
「本当にそうかな?」
「え?」
「だったら昨日の夕方、血相変えて優人が僕に電話をしてきたのはなぜ?」
「そ、それは……」
「君に誤解されたままだと困るから、恥を忍んで僕に伝言を頼んだんだろう?」
「……」
「本当は君に会いたい……でも術後の患者さんの容態を見なきゃいけないし、今日も手術が入ってる。本当はすぐに飛んで行きたいのに行けない。だから考えた末、僕に伝言を頼んだんじゃないかな? 一秒でも早く誤解を解きたかったんだと思うよ」
「…………」
もし野中の言葉がすべて真実なら――。
七星は、自分の早とちりで優人を深く傷つけたのだと気づき、胸が締めつけられた。
「ブロック、解除してやってくれないか?」
「……はい」
「よかった。じゃあ今後は、二人でちゃんと話し合って誤解を解くこと。いいね?」
「はい。いろいろとご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
七星は深々と頭を下げ、出口へ向かった。
その背中に、野中が声をかける。
「優人はいい加減な奴じゃないよ。だから、安心して付き合いなさい」
まるで二人の交際を後押しするような言葉に、七星は思わず振り返った。
野中はこの上なく優しい笑顔で、軽く頷いてみせる。
院長室を出た七星は、歩きながら胸の奥から喜びがあふれてくるのを感じていた。
(全部誤解だったんだ……なんだ、ばかみたい……)
浮き立つ気持ちを抑えきれず、七星は軽やかに階段を駆け下りる。
その瞬間、頭をバットで殴られたような激しい痛みが襲った。
(うっ……頭が……)
痛みに耐えきれず両手で頭を押さえた七星は、足を滑らせ、そのまま階段を転げ落ちた。
踊り場に倒れ込んだまま、優人の笑顔が脳裏に浮かぶ。
(せん……せい……助けて……)
七星の意識は急速に遠のき、痛みに歪む表情のままゆっくりと目を閉じた。
コメント
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野中院長がおじちゃまキューピットって感動してたら🥺 優人先生、走り出せ🏃♀️💨
折角誤解が解けたのに😢 似ているからって病気まで同じで無くても良いのに😢 誰が早く七星ちゃんを見つけて!そして一刻も早く優人先生七星ちゃんの元に駆けつけて命を救ってください🙏
七星ちゃん💦💦前に頭痛がするって言ってたから…それが原因⁉️😨 せっかく誤解が解けたのに😭 わーん💦優人先生、助けてーーー😭