テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

相談室のドアは今日は閉じられていた。「相談者」が来る気配もない。

けれど、日下部は机に座り、ノートを開いた。

この一冊に、いくつもの悩みと、いくつもの返事が書き込まれている。


彼はしばらくペンを回し、視線を宙に泳がせた。

やがて、誰に向けるでもない声が、ぽつりと落ちる。


「……気づけば、ずいぶん話をしてきたな」


最初は、ただの気まぐれだった。

自分が話を聞けるような人間じゃないと分かっていたし、答えなんか出せるとも思っていなかった。

けれど、来るたびに誰かの言葉を受け取って、自分の中にも、少しずつ残るものがあった。


「俺は、不器用だし、まともな答えも出せねぇ。

でも……来てくれたやつらの言葉は、全部ちゃんと覚えてる」


ノートを指先でなぞる。

書かれた文字は震えていて、雑で、時に荒っぽい。

それでも確かに、彼が返したものの証だった。


「――ありがとな」


小さく、それだけを呟いた。


顔を上げると、窓の外には薄い夕焼けが広がっていた。

相談室の空気は静かで、これまでの声の余韻だけが残っている。


日下部はノートを閉じ、深く息を吐いた。


「……ま、これで終わりじゃねぇ。

続けていくさ。俺にできる限り、な」


不器用に口角を上げる。

それは笑顔とも、決意ともつかない表情だった。


こうして――相談室の第一章は幕を閉じる。

けれど、日下部の声が消えることはない。

次のページが、静かにめくられようとしている。



この作品はいかがでしたか?

4

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚