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#死に戻り
満月の鐘まつりから三日後の朝、しずくシェルターにはまだ片づけきれていない箱がいくつも残っていた。
けれど空気は軽い。疲れているのに、誰の足取りにも沈んだところがない。
サベリオが脚立の上で提灯の紐を外していると、入口から息を切らしたデシアが飛び込んできた。いつもの録音機のかわりに、折り目のついた封筒を両手で持っている。
「来た!」
声の調子だけで、皆が振り向く。
デシアは封筒を胸の前でひらひらさせた。
「特待生選考、一次通過!」
一拍遅れて、シェルターの中が一気に沸いた。
モルリが鍋のふたを鳴らし、ヌバーが「誘ってるんですけど二次も取ってきてください!」と意味の分からない声援を飛ばす。ハルティナは両手を上げ、ミゲロは素直に大声を出した。デシアは笑いながらも少し泣いていて、その顔を見たサベリオの胸も熱くなる。
「よかった」
サベリオが言うと、デシアはうなずいた。
「町の音で勝負したいって、ちゃんと届いた」
その言葉がうれしくて、サベリオは脚立から下りるのを一瞬忘れた。
だがその日の午後、もうひとつの知らせが届く。
今度はニカットが役所から戻り、濡れないように封筒を抱えて入ってきた。
「仮通知だけど」
彼は呼吸を整えてから言う。
「しずくシェルター、地域交流施設としての継続利用、前向きに再審査へ入る」
今度は、さっきより深い静けさが落ちた。
それがどういう意味か、皆すぐには声にできない。閉鎖の話が現実味を持った時の冷たさを、まだ誰も忘れていなかったからだ。
ロヴィーサが小さく息を吐く。グルナラは目を閉じ、パルテナはその場で深く頭を下げた。ダニエロは机に手をつき、しばらく顔を上げられない。
サベリオはゆっくり辺りを見回す。
この結果は、一人の手柄ではない。昔の記録を見つけた人、謝るべき相手に謝った人、正しい書類をそろえた人、危ない場所を直した人、雨の夜に客席を支えた人。その全部がつながって、ようやくここまで来た。
「逆転だな」
ミゲロがぽつりと言う。
サベリオは笑った。
「うん。全員でやった逆転だ」
窓の外では、春の風が昨日より少しだけあたたかい。
誰か一人の犠牲で残る未来ではなく、皆でつかみ取った未来が、ようやく目に見える形になり始めていた。