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押し入れの奥に、その箱はあった。
段ボールでも、金庫でもない。
ただの、古い工具箱みたいなやつ。
真琴はしばらく触らなかった。
触った瞬間に、何かが「始まる」気がして。
蓋を開けると、埃の匂いがした。
中身は整っていない。
書類は封筒ごとにバラつき、日付順でも事件別でもない。
一番上に、手帳。
市販の、どこにでもある黒い手帳。
表紙の裏に、ボールペンで一行だけ。
再調査用
※公式資料を信じるな
ページは断片的だった。
日付が飛び、事件名も省略されている。
──黒瀬
──証言の一致率が異常
──偶然では説明できない
──「作られた静けさ」
真琴は眉をひそめる。
父は、断定しない人だった。
仕事の話をするときも、必ず逃げ道を残す。
なのに、この手帳は違う。
言葉が短く、余白が多い。
考える途中で、何度も止めている。
ページの端に、小さく書かれた名前。
久我
丸で囲まれていない。
強調もされていない。
ただ、何度も出てくる。
真琴は気づく。
これは「結論」に向かう手帳じゃない。
疑い続けるための手帳だ。
一番最後のページは、ほぼ白紙だった。
もしこれを見つけた人へ
正しさより、
違和感を信じろ
真琴は手帳を閉じる。
胸の奥で、嫌な音がした。
これは――
父が、途中でやめたものだ。
やめたのか。
やめさせられたのか。
どちらにしても。
この箱は、
「過去を整理するためのもの」じゃない。
掘り返すためのものだ。
真琴は、箱の蓋を閉めなかった。