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チョークの音が黒板に響いている。静かに、確かに、何かを説明している声が、遠い。
隣の席では蓮司が腕を組んで欠伸をしていた。
窓の外の風景をぼんやりと眺めてる。
授業なんてまるで興味がないくせに、咎められることもない。
(ほんと、自由だな)
羨ましいわけじゃない。
でも、どうしてそんなふうに生きていられるんだろう、って思う。
何を考えてるのか、何も考えてないのかすら、よくわからない。
……だけど。
彼のスマホの通知に、「沙耶香」の名前が表示された瞬間の、
あのほんの一瞬の“間”だけは、
どうしてか見逃せなかった。
(好きなんだ、あいつのこと)
見るからに違う人種。冷たくて、綺麗で、何も感じてないみたいな人。
誰のことも好きじゃなさそうな沙耶香が、
なぜか蓮司の“恋人”をやっている。
しかも――
(あいつは、俺のことを「まだ」憶えてる)
ただの偶然じゃない。
わざとらしく蓮司の近くにいたとき、沙耶香の視線が一瞬こちらを掠めた。
あれは、ただの女の嫉妬とは違う。
“加害者”が、今もなお、自分の影をひきずらせてくるあの冷たい視線。
チョークの音が止まった。先生が誰かを当てている。
耳に入らないまま、遥はペンを持って、ノートの余白に
小さな、誰にも見られたくないような一文を書いていた。
『蓮司もあいつも、同じ種類の人間だ』
書いて、すぐに消した。
心の中にだけ、残った。