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蓮司、中学生。
鉄の匂いが鼻の奥にへばりつく。雨上がりの空気と、地面に滴る赤。
蓮司は、制服の上から血をぬぐいもしなかった。
相手の男は、もう立てない。口の端から泡を吹いて、泥の中に半身沈んでいる。
「……これで終わり?つまんねぇなぁ」
蓮司はつぶやく。無傷ではなかった。左の眉は割れて血が流れ、肋もひびいていた。
けれど、笑っていた。
「なあ。さ、立てよ。まだできるだろ? 歯、あと何本残ってんの?」
自分でも意味がわからない。
どこまでやれば終わるのか。何をすれば“何か”が変わるのか──
けれど、殴るたび、蹴るたび、心臓が静かになるのがわかった。
静かになることが、怖くなかった。
「お前……人間かよ……」
地面に倒れた男が、呻くように言った。蓮司は首をかしげた。
「……いや? そりゃわかんねーけど」
ひどく軽く、言葉を投げる。まるで、自分自身に興味がないかのように。
「“人間らしい”とか、そういうの……さ。
たぶん、あの日、置いてきた。燃えてなくなったっていうか、なんつーか」
ぼそりと呟いたそれは、聞き取れるかどうかのギリギリだった。
けれど蓮司は、それを誰かに届けるつもりなんてなかった。
「……ま、今さら戻っても灰しかねぇしな」
爪の中に入り込んだ血を見つめるように、蓮司は指を見ていた。
その目は、どこか遠くの炎を映しているようだった。
「……行こ。飽きた」
そして、歩き出す。
夜の道に、警笛が遠く響いた。