昼休み。教室のど真ん中で、大地はまたもや隼人にいじられていた。
「お前の弁当、卵焼き黒焦げじゃん。炭か?」
「ははっ! それ隼人に食わせたら歯真っ黒にできんじゃね?」
「誰が食うかバカ!」
周囲はどっと笑い、大地は両手を広げて「イェーイ!」とおどけて見せる。
拍手や笑い声が飛び交い、完全に“クラスの盛り上げ役”。
――けれど。
ふと隼人が見た横顔は、ほんの一瞬、寂しげだった。
その影はすぐ笑顔でかき消され、いつもの明るい大地に戻る。
(……今の、なんだ?)
隼人の胸がざわつく。
放課後。人気のない廊下で、隼人は大地を呼び止めた。
「お前さ……いつも無理して笑ってんじゃねーの?」
「は? なにそれ?」
「だって、お前……今日ちょっと……」
隼人の言葉を遮るように、大地はにかっと笑った。
「俺、笑うの得意なんだよ。笑ってりゃさ、誰かしら笑ってくれるし。ほら、俺って“ネタ要員”だろ?」
「……」
一瞬の沈黙。
大地は冗談めかして肩をすくめる。
「まぁ、どうせ俺なんて、いなきゃいないでクラスは勝手に盛り上がるしさ。必要ってほどでもねーし」
それは、軽いノリに包んだ“本音のかけら”だった。
隼人はぐっと胸が詰まる。
(ふざけんな……。お前がいなきゃ、俺……)
けれど、言葉にはできなかった。
代わりに大地の頭を軽く小突き、そっぽを向く。
「バカ。勝手にいなくなるなよ」
「え? なにそれ。告白? プロポーズ?」
大地はすぐに笑いへ変えて、またからかう。
でもその笑い声の裏で、隼人の胸の鼓動は本気で早まっていた。
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